皮膚がん予防や美白ブームで悪者にされがちな紫外線ですが、骨の形成や維持に重要な役割を果たしているビタミンDの生成にはなくてはならない要素でもあります。今回は『侍Dr.近藤惣一郎のフィッシングクリニック』でもおなじみ、現役ドクターであられる近藤先生に解説してもらいました。
(アイキャッチ画像提供:WEBライター・近藤惣一郎)
紫外線を浴びることの大切さ
東京オリンピックで沸き返るはずの2020年。新型コロナの影響で世の中は一変しました。緊急事態宣言に基づく不要不急の外出自粛で釣りは勿論、今まで当たり前に出来ていたことが出来なくなりました。当然、身体にはストレスが溜まり、体調不良が生じ、疲れやすくなってきます。中でも長期にわたり外出を控えることで生じる問題に日光の照射不足、紫外線不足があります。
美白がブームになったこの30年間、紫外線は皮膚がんを発生させる悪者のように扱われてきましたが、実は紫外線はビタミンDの産生に関わりがんやアレルギー、うつなどを予防し、人間にとって非常に大切なものであることが再認識されてきました。釣り人にとっても切っても切れない関係にある紫外線。
今回は、こんな社会情勢だからこそ、紫外線の効果、紫外線とのつき合い方についてお話ししましょう。
紫外線の種類
太陽から届けられる光線は目にみえる可視光線(波長400?760nm)、目にみえない光線があります。可視光線よりも波長が長い赤外線(760nm以上)と短い紫外線(400nm以下)です。さらに紫外線はA波、B波、C波の順により波長が短くなる3種に分類されます。因みにC波よりも波長が短いものが放射線です。C波は放射線に類似して有害ですがオゾン層に遮られ地上には届きません。一方A波の9割、B波の1割が地上に到達します。
B波はA波よりも地上に届きにくく、紫外線全体の4%に過ぎず、身体の中にも入りにくいですが、極度に浴びると皮膚表面の表皮にサンバーン(Sunburn)といういわゆる「日やけど」=火傷・熱傷を起こし、皮膚を赤くしたり、水疱をもたらし、後のシミの形成にもつながる悪玉紫外線です。
一方A波は表皮の奥にある真皮まで到達しますが、皮膚の表面に色素繊胞による膜を形成して日やけどを防いでくれます。これがいわゆる日焼け=サンタン(Sun TUN:皮膚の色を濃くする)です。ふだんから適度に紫外線を浴びていれば、A波によるサンタンがシミを防いでくれるので「善玉紫外線」といえます。
真夏の炎天下、朝10時から午後2時までの時間帯に、無防備で長時間日に当たれば熱中症になりますし、日やけども起こすでしょう。しかし、それ以外であれば熱中症対策さえしていれば、紫外線対策は必要ないともいえるのです。
紫外線は皮膚がんの元?
日本人の皮膚がん発症率はオーストラリア人の100分の1です。
紫外線予防キャンペーンの一番の目的は、皮膚がんの予防です。1982年、南極直上のオゾン層の著しく減少(オゾンホール)が発見され、有害なC波が地上に届けられることにより、日光に浴びると皮膚がんや白内障が生じるリスクが高まることが唱えられました。そして世界中に紫外線予防キャンペーンが拡がりました。
しかし、オゾンホールが発見されてから今日までに、日本で皮膚がん患者が目に見えて増加したという研究結果はありません。それどころか、日本人で皮膚がんによって亡くなった人は、1586人(「平成四年人口動態統計」)で、全がん死亡者の0.4%にすぎないのです。
確かに、白人は皮膚がんを発症するリスクが高いといわれていますが、それは紫外線を浴びたときに日やけするもととなるメラニンという色素が少ないためです。日本人の皮膚がんの発症率は、皮膚がんの発症リスクが高いといわれているオーストラリア人の100分の1にすぎません。しかも、全世界の皮膚がんの発症率を見ても、必ずしも紫外線の強い赤道に近い国々が高いとは言い切れないのです。
さらに、皮膚がんのうち日本人に最も多い皮膚がんは基底細胞がんですが、このがんはほかの臓器に転移することはほとんどなく、命にかかわるがんではありません。命にかかわる皮膚がんはメラノーマ、別名悪性黒色腫です。メラノーマは、日に当たることがない足のうらや足の爪に発生するがんで、紫外線とは無関係です。
オゾンホールは、オーストラリアとニュージーランドの南部まで広がっているため、その地域に住む白人種の人たちは紫外線対策が必要です。しかし、近年のフロンガス排出規制によって、オゾンホールは1997年を境に減少傾向にあります。そして、現在、日本でのオゾンホールの影響は少ないといわれています。