釣りの対象となるイカのなかで、王者と呼ぶにふさわしいのがタルイカだ。最大20kgに成長する巨体が繰り出すパワーは想像を絶し、これを狙ったゲームこそイカメタルのファイナルステージと言える。
10月2日、タルイカメタルの第一人者でAnisakis(以下アニサキス)代表の岩城透氏とともに、福井県敦賀港のKAZUMIMARU 一美丸に乗り、開幕直前のタルイカ調査釣行を取材した。
タルイカ釣りはまずタナを探す
午後4時半出船、長い航程を経て、船は敦賀湾口のずっと沖に到着。
岩城さんをはじめ、船中皆がラインに結んだのは、タルイカ専用ジグ『タルブリッド/Anisakis』180gだ。
船長の指示を参考に、水深50mから100mまでの範囲を各自探っていく。
この時期のタルイカは、1日のうちに水深数十mから200mぐらいまでの範囲を移動しており、夜間は浅く、日中は深い所を回遊している。
この移動中のタルイカを狙うのだが、活動範囲が広いため、バトルはまさに遭遇戦。
マイカなどに比べると日ごとのタナも明確ではなく、最初のヒントが得られるまでは広範囲に探っていくほか方法はない。
タルイカの釣り方
岩城さんの横に立ち、質問しながら同氏のゲーム展開を確認していく。
まずは大切なドラグ設定。
タックルやアクション、潮流などを考慮して微調整するそうだが、まずは2kgが基本となるとのこと。
次にアプローチ方法だが、船長から指示のあった水深の最上部(今回なら50m)までジグを沈めたら、ここからソフトなワンピッチジャークを5m。
ジャークを終えたらロッドをゆっくり立てて誘い上げ、ここからロッドのストローク分テンションフォールし、ステイを2秒。
アタリが無ければ10mフォールさせ、再び一連の動作で5m探り上げる。
これを繰り返しつつ、5m単位で指示ダナの最深部まで探り下げたら、再び同じアクションで(ただし上へ探っていくので10mのフォールはしない)5m1セットで指示ダナの最上部まで探り上げていくのだ。
これが最初に行うステップ1のアプローチだ。
ヒットしたスルメイカがヒントに
当日のヒットカラーはクリアグロー、グロー、チャート。
ほどなくして船中でポツポツとスルメイカが上がり始めた。
「なんだ、スルメか……」とぞんざいに扱ってはいけない。
スルメイカはタルイカのベイトになっていることが多く、これのいる水深が、タルイカのタナを絞るうえで重要なヒントとなるのだ。
当日のスルメイカは水深50m前後に最も多かった。
そこで、岩城さんをはじめ、経験値の高いアングラーは50mの上下10mに狙いを絞った。
この段階でタルイカへのアプローチはステップ2へ。
岩城さんは5m幅だったタルイカ捜査網を3m幅に縮小し、ステイの時間も長くして(最長で1分待つことも)より緻密に探っていった。
ステップ2のアプローチに変わってしばらく経過した午後9時過ぎ、右舷トモにいた井口さんのロッドが大きく孤を描いた。
明らかに本命を思わせる曲がり方だ。
緊迫のやり取りのあと、取り込まれたのは今季の初物、小ぶりながら本命のタルイカだった。
ヒットしたタナは50m、井口さんはまさにスルメイカの層に狙いを絞ってヒットさせたという。
船中皆がいだいていた期待が確信に変わり、各自水深50m前後を集中攻撃した。
タルイカはオスとメスのペアで行動しており、うまくやれば連打が狙える。
ただし先にオスを釣ってしまうとメスはそのままどこかへ行ってしまうと言う……。
そんな世知辛い話に端を発し、当日同船となった釣り具のイシグロ鳴海店の武内さんと、世間話しに華を咲かせつつアタリを待った。
だが、アタリが無いまま時間だけが過ぎ、弾むのは話ばかり。
いつしか船上は沈滞ムードに包まれていった。
イカの王者、襲来
しかしあきらめてはいけない。
ベイトのスルメイカがいる以上、アタリが無くても信じて誘い続けることが、タルイカと出会うために最も大切な要素なのだ。
そして沖上りまでのカウントダウンが始まった午後10時半過ぎ、ついにそのときがやってきた。
「きたーっ!」と突然歓声が上がり、右舷最前部の平塚さんのロッドが大きく曲がって、ドラグがうなりを上げている。
皆の視線が集中するなか、平塚さんとタルイカの戦いが始まった。
船ベリの高さが災いしてファイトの姿勢が取りづらく、女性の腕の力だけでは船底で踏ん張るタルイカをリフトするのは難しいようだ。
すぐに岩城さんが駆け付け、ポンピングによる反撃をアドバイス。
大出力のジェット噴射が収まるのを待って、ロッドの曲がりを保ちながら、慎重にポンピングしていく。
しかし相手はイカの王者、再び激しい反撃に転じ、船底を逆舷に向かって突進していった。
ラインの角度が浅くなり、気をつけないと船底にこすりそうだ。
平塚さんは身を乗り出し、ロッドを突き出して対応。
全身を使ったポンピングで距離を詰めていった。
長い攻防の末、リーダーが見えそうなところまで距離が詰まったが、タルイカは底力を振り絞って再び疾走。
最後まで抵抗をやめない、まさに王者の名に恥じない奮闘ぶりだ。
緊張のなか、ついにカタンと音を立ててノットがガイドを通った。
海面に現れたのは10kg級のタルイカ。
北野船長のギャフ打ちが一発で決まり、王者はついに船上に横たわった。
闇夜に歓喜の声が響き、喝さいが平塚さんを包んだ。
ヒットしたタナは40m。
回遊を信じ、誘い続けた信念がタルイカを呼び寄せたのだ。
タルイカメタルは激闘の大物釣り
長い受難を乗り越え、ついに訪れたクライマックス。
実にドラマチックな展開だったが、ストーリーはまだ終わらなかった。
しばらく後、今度は左舷最前部にいた佐藤さんのロッドを豪引が襲った。
ファーストランをドラグでかわし、ロッド全体で相手の力を受け止め、リフトに移る佐藤さん。
相手の反撃にも冷静に対処し、無事取り込み成功。
上がったのは8kg級のタルイカで、まさにとどめの一発。
この1尾が締めくくりとなり、調査釣行は大成功のもと幕を閉じた。
タルイカメタルの魅力はそのスケールの大きさにあるが、最大の特徴は船中一丸となってイカの王者に挑むというそのスタイルにある。
今釣行でもベイトやタナの情報を共有し、長い沈黙に耐え、激烈なファイトを制した勝者の喜びを、船全体で分かち合う姿は感動的だった。
タルイカのシーズンは始まったばかり。
簡単に手に落ちる相手ではないが、往年のファンも、初めて挑戦する人も、情熱と信念を持って挑戦してほしい。
次に船上で喝さいに包まれるのはあなたかもしれないのだ。
<週刊つりニュース中部版 編集部・五井/TSURINEWS編>
▼お問い合わせ
KAZUMIMARU 一美丸
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