今年も春がやってくる。雪化粧の山々に日ごとに茶の色が増してきて、野山のあちこちが白やピンクに彩られる。薄桃色の桜がまぶしい新緑に代わるころには、流れの中は全盛期を迎え、渓魚たちは腹いっぱいにエサを食(は)む。そんな季節はもうすぐだ。仕掛けを結ぶ手を休めてしばしお付き合い願いたい。
本流で渓魚を狙う
アマゴやイワナなどの渓流魚を思い浮かべるとき、圧倒的に多数の諸兄が険しい渓での釣りを想像すると思う。
誰よりも早く車止めに着いて、夜明けを待ち構えて渓へ下りる。水が出た後一番乗りなら、魚たちは狂ったようにエサを追ってくれる。あくまでも一般的にだが、到達に苦労する釣り場ほど、釣り自体は簡単になっていくことが多い。
「息も絶え絶えにたどり着いた魚止めの滝壷にミミズを投入すると、待つ間もなく穂先まで引き込むような強烈なアタリとともに…」なんて言うのは、この手の記述の常套句だ。
これに対して本流は、とうとうとした緩やかに見える流れに代表されるように、のんびりとした釣りに感じられる。
私たち本流師ばかりでなく、初夏には多くのアユ師がサオを差し、子供が淵に飛び込んだり、散歩に来た犬が泳いでいたりもする。少ないアタリをせっかく捉えても、コイやウグイなどの外道が大半だ。本当にこんな所にアマゴがいるのだろうか。
本流ビギナーなら必ずぶつかる最初の己との闘いである。
本流釣りは大物狙い!
チョウチン釣りを強いられる細く小さい渓は、その水温からしてイワナ、アマゴ以外の外道は少なく、エサに枯渇している場合がほとんど。ゆえに、流下するエサらしきものには突進するかのように口を使うことが多々あるわけだ。
対する本流域は水生昆虫、小魚類も数多く生息しており、ヤツらの食事には事欠かないはずだ。私たちも市街地であれば和食洋食麺類コンビニなど、なんでもござれで選択できることに似ている。釣り人の流すミミズをわざわざ食いに行かなくとも店はそこここに開いているのだから、そりゃあ釣れないはずだ。
ではなぜ、わざわざ釣りにくい本流でアマゴを狙うのか? 答えは簡単、デカくて美しいヤツがいるからである。
渓魚に出会う確率は小渓の何十分の一かもしれない。がしかし、大きくサオをしならせ、イト鳴りをさせながら格闘し、ようようタモに落とし込まれたそいつの姿を見れば、それまでの苦労はきれいさっぱり消え失せ、大いなる歓喜の渦にもみくちゃにされる。
本流でサオを出してアマゴを狙うというのは、つまりはそういうことなのである。
本流釣り入門タックル
魚の着き場をダイレクトに射る渓の釣りが点の釣りなら、線の釣りと言われる本流のアマゴ釣りは、ターゲットの口元にエサを届けるように何度も流れをトレースする釣り。スタンスより下手を狙うためターゲットとの距離を保つこと、スジを流す距離を稼ぐことの2点を克服するには長ザオが必要不可欠になるわけだ。
長ザオとひと口に言っても各メーカーから発売されているのはさまざまだ。ターゲットが極端な大物であったり、極細イトで狙いたい向きは専用ザオを使ってもらえばいいが、これから本流を釣ってみようというビギナーには硬すぎず軟らかすぎず、0.3号から0.8号のハリスが使用できる8m前後のサオをお勧めしたい。
初期から終盤まで問題なく使用でき経済的でもある。注意してもらいたいのはカタログ自重に惑わされないことだ。いくら軽くても構えたときにあまりにも重心が前方にあるものは避けた方が無難だ。
本流釣りのハリス
ハリスは、尺前後くらいまでをターゲットとするのなら0.4号を再下限として考えてもらうのがいいと思う。まだ見ぬ大物を狙うのであれば1号以上を結ぶ可能性もある。広くて深い本流で大物を獲ることを思えば、イトを落として容易に流すよりも太めのイトで流れのスジをキープする訓練をした方が結果に近づくのが早い。
ハリとオモリ
ハリはターゲットの大きさに合わせるというよりもむしろ、使用するエサによって使い分ける。私の場合、例えばミミズなら最低でも7.5号以上の大きめのものを、イクラなら3粒以上刺せるサイズをチョイスする。
極少のヒラタなどを駆使する向きには、エサへのダメージを考慮して刺さりの鋭い細軸が有効となるだろう。
オモリはぜひともゴム張り式をお勧めしたい。オモリの交換は本流釣りのキモであるといってもいい。そのくらい重要だ。少々値段の高いことには目をつむって現場で使用してみてほしい。
目印も諸説あるが、私は蛍光色の毛糸目印の極太を相当大きく切って4カ所付けで使用している。目が弱ってきたこともあるが、仕掛けを流れに乗せる効果と、対岸からもよく見えることで無用なトラブルを予防する役割も果たしてくれる。