捨てられることも多かった深海魚『スミクイウオ』を食べてみた 現在は脱・未利用魚?

捨てられることも多かった深海魚『スミクイウオ』を食べてみた 現在は脱・未利用魚?

スミクイウオという魚を知っていますか?スミクイウオはムツに似ていますが、より小型で、身がやわらかい深海性の魚です。従来はあまり利用されず、一般の方にはあまりなじみがない魚でしたが、近年はこのスミクイウオもよく利用されるようになりました。

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(アイキャッチ画像提供:椎名まさと)

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日本各地に生息するスミクイウオ

スミクイウオSynagrops japonicus(Doderlein,1883)は日本各地の太平洋岸および京都府以南の日本海岸、東シナ海に生息する中~深層に見られる魚です。

大きいものでは体長35センチを超えるくらいにまでなりますが、通常はもっと小さいものです。

捨てられることも多かった深海魚『スミクイウオ』を食べてみた 現在は脱・未利用魚?戸田沖で漁獲されたスミクイウオ(撮影:椎名まさと)

「スミクイウオ」の名の由来は、口内背面奥部も黒いことから来ているようです。

アカムツやユメカサゴ(これらは俗に「のどぐろ」と称される)などの深海魚は、口腔内が黒かったり、内臓が黒く包まれていたりする魚が多いです。

これは深海に多い発光する生物を捕食した際に、その光が体の外に漏れないようにするためという説があります。そうしないと、今度は自分が外敵に襲われてしまうのです。

なお、背鰭がふたつに分かれていることからムツ科のムツなどを連想させるほか、西伊豆の戸田エリアなどでは「くろむつ」と呼ばれる種ですが、ムツ科の魚ではありません。

スミクイウオ属はかつてホタルジャコ科だった

スミクイウオは、スミクイウオ科・スミクイウオ属に含まれる魚です。

このスミクイウオ属はかつてホタルジャコ科に含められていたものですが、現在はスミクイウオ属の魚はスミクイウオ科という別科に含められることが多くなりました。

分子分類に基づくものですが、臀鰭の棘数などによりホタルジャコ科とは別の群とみなしてもよいと思います(ホタルジャコ科では通常3棘、スミクイウオ科では通常2棘)。

また、古い書籍などではスズキ科の中に含められていたこともありました。

捨てられることも多かった深海魚『スミクイウオ』を食べてみた 現在は脱・未利用魚?ヒメスミクイウオ属のバケスミクイウオ(撮影:椎名まさと)

なお、日本産のスミクイウオ科魚類はスミクイウオ属と、ヒメスミクイウオ属の2属からなります。

スミクイウオ属は世界で3種、うち日本産1種なのに対し、ヒメスミクイウオ属は日本から7種が知られています。

この属の中にはサラシヒメスミクイウオなどのように、近年になって日本から採集された個体をもとに新種記載された種もいます。

捨てられることも多かった深海魚『スミクイウオ』を食べてみた 現在は脱・未利用魚?スミクイウオの腹鰭。腹鰭棘前縁に小棘はない(撮影:椎名まさと)
捨てられることも多かった深海魚『スミクイウオ』を食べてみた 現在は脱・未利用魚?バケスミクイウオの腹鰭(撮影:椎名まさと)

スミクイウオは比較的大きくなり、標準体長で35センチにまでなりますが、ヒメスミクイウオ属のものはそれよりも小さく(10センチ程度)、見分けやすいと思います。

しかし正確に見分けるのであれば、腹鰭前縁の棘をみて見分けることになります。

スミクイウオ属では腹鰭棘前縁がなめらかであるのに対し、ヒメスミクイウオ属の魚では腹鰭棘前縁に鋸歯状の小さな棘があります。

底曳網漁業で獲れるスミクイウオ

スミクイウオは釣りで漁獲されることもあるのですが、多くは底曳網漁業によって漁獲される魚です。主に水深100~300メートルくらいの海底でよく網にかかります。

体は円鱗に覆われているのですが、網を揚げるときや選別する際に多くの個体で鱗がはがれてしまっています。

1回網を入れて揚げる過程で、多いときには200個体以上が網に入るなんてこともあるようです。しかしながら、魚屋さんの店頭ではあまり見かけない魚でもあります。

というのも、本種は練製品の原料として使われていたことはあるものの、多くの場合は船上に上げられたときに投棄されることが多かったためだとされています。

筆者が乗船していた底曳網漁業においても、もったいないことに多くの個体が投棄されてしまっていたのでした。

捨てられることも多かった深海魚『スミクイウオ』を食べてみた 現在は脱・未利用魚?尾鷲の市場のスミクイウオ(撮影:椎名まさと)

スミクイウオは美味しいぞ

スミクイウオは古くから底曳網漁業で漁獲されてきました。しかし、一部練製品として需要はあったものの、多くは海上で投棄されてしまっていたのでした。

現在はこのような深海魚についても、これまではほとんど利用されてこなかった魚種の利用が行われるようになりました。

深海底曳網漁業の基地がある鹿児島県南さつま市では、同市が鹿児島大学水産学部や水産仲卸売会社の株式会社田中水産(鹿児島市)と協力する「かごしま深海魚研究会」という<学・産・官>が一体となった取り組みがあり、深海魚の普及活動を行っています。

この研究会の会員企業や料理店など取り組みにより、鹿児島県の多くのお店で深海魚が出されたり、販売されたりしています。スミクイウオについても、刺身など様々な料理で美味しく食べられているようです。

我が家でも、スミクイウオは刺身にしたり塩焼きにしたりして食べています。先述のように、底曳網漁業で水揚げされたスミクイウオは鱗が剥がれ落ちていることが多く、内臓を落として塩をまぶして焼くだけで美味しく食べられるのです。

捨てられることも多かった深海魚『スミクイウオ』を食べてみた 現在は脱・未利用魚?スミクイウオの塩焼き(撮影:椎名まさと)

近年は「かごしま深海魚研究会」の他にも、静岡県沼津市戸田の「ヘンテコ深海魚便」などの取り組みもあり、従来よりも深海魚を入手することが容易になりました。

興味のある方はぜひ、様々な深海魚(一般的には食用としないものも含めて)を食べてみてほしいと思います。

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(サカナトライター・椎名まさと)

参考文献

中坊徹次編(2013)、日本産魚類検索 全種の同定 第三版、東海大学出版会

岡本誠・前田達郎.2021.日向灘から得られたSynagropidae スミクイウオ科(新称)の2種,Parascombrops analis バケスミクイウオとP.ohei サラシヒメスミクイウオ(新称)の九州からの初記録.Ichthy,Natural History of Fishes of Japan,7:23~29.

岡本誠・本村浩之編(2024)、日本の深海魚図鑑、山と溪谷社

山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次(2007)、東シナ海・黄海の魚類誌.東海大学出版会