エルニーニョ現象が起こると、日本上空の気圧配置が変わり、冷夏、暖冬になる原因であることが知られています。まさに、2023年はエルニーニョ現象が発生した年でした。この現象は、南米ペルー沖で発生する海面温度の上昇が原因で発生しており、ペルーのカタクチイワシ(アンチョビ)漁に打撃を加えるほか、私たちの食生活にも影響を与えています。
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エルニーニョ現象
エルニーニョ現象は、南米ペルー沖で発生します。
ペルー沖では、春から秋にかけて低温の海水が湧き上がっており、これを湧昇流(ゆうしょうりゅう)といいます。ペルー沖の海上で吹く貿易風は、東から西に吹いていて、海面ではそれに伴った海流が発生します。
海面の暖水が流れに沿って西へ向かい、ペルー沖では水が流れたところで湧昇流が起こります。なので、ペルー側の海水は冷たく、ペルーの西にあるインドネシア側の海水は暖かくなります。
毎年クリスマス頃になると貿易風が弱まり、それと共に海流も弱まります。ここで海を低温にしていた湧昇流も弱まるため、ペルー沖の海面温度が上昇します。ペルーの漁師たちは、この海面温度の上昇を、クリスマス頃に発生することにちなんで「エルニーニョ(神の子)」と呼びました。
通常、3月頃になると再び貿易風が戻るのですが、ときどき貿易風が強まらずに海面水温が下がらないことがあります。このように、エルニーニョが続いた状態をエルニーニョ現象といいます。
エルニーニョ現象の反対の現象はラニーニャ現象と呼ばれています。日本では夏は猛暑、冬は厳しい寒さとなるのが特徴です。
ペルーの漁業との関係性
ペルー沖では湧昇流のおかげで、プランクトンが多く生息しています。そして、そのプランクトンを餌にするアンチョビの漁場でもあります。
クリスマス頃になると、海水温度が上がりプランクトンが減るため、餌が少なくなったアンチョビはいなくなってしまいます。通常なら3月頃になるとアンチョビが戻ってくるのですが、エルニーニョ現象が発生した年には海水温度が高い状態が続くためアンチョビが戻ってこず、漁獲量が大幅に減少します。
エルニーニョ現象が発生していない2021年、世界のイワシ・ニシン類の漁獲量はペルーが5,271,730トンで世界1位(世界のイワシ・ニシン類の漁獲量 国別ランキング・推移-GROBAL NOTE)でした。
エルニーニョ現象が起こった2023年、4月~6月に行われるアンチョビの第一漁期(冬漁)は、稚魚率の高さから資源保護の観点で解禁されませんでした。
10月26日からはアンチョビ・シロカタクチイワシの第二漁期(夏漁)の解禁が発表されましたが、漁獲枠は前年よりおよそ26パーセント減少。エルニーニョ現象のさらなる発生を危惧して縮小されたとのことです。
アンチョビの不漁が日本へ与える影響は?
日本はペルーのアンチョビを養殖魚の飼料用に大量に輸入しています。アンチョビを加工した「魚粉」が養殖魚に与える飼料に使われるのです。
2023年6月には、魚粉の国内取引価格が約8年半ぶりの最高値を更新(魚粉の国内価格 最高原料の漁延期、世界で不足-日本経済新聞)しました。これもエルニーニョ現象による冬漁の禁漁の影響です。
日本の養殖業者が扱う飼料には、40~50パーセントの魚粉を使うものが多く、魚粉の高騰は日本の養殖魚の値段高騰にもつながるのです。現在、不安定な天然資源に頼らない養殖飼料の開発が望まれています。
大気の変動が海洋の環境変化から、漁業へつながり、私たちの身近な生活にまで影響があることを不思議に感じることもあるでしょう。このような相互作用を知ることは、私たちの生活と地球環境が直接結びついているという気付きを与えてくれます。
(サカナト編集部)