外来魚であるニジマスは本州では繁殖できないと言われています。それはいったいなぜなのか調べてみました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
ニジマスって?
ニジマスは皆さんもよくご存じの通りサケ科の淡水魚です。漢字では「虹鱒」と書き、英名は「レインボートラウト(rainbow trout)」と呼ばれています。
一般的な大きさは40cm前後で、大きな個体になると80cm~1mの大きさに成長する個体もいます。エラから尾ビレにかけての朱色の縦帯が特徴的で、体全体に黒い小さな斑点が見られます。
ニジマスは太平洋東岸とカムチャツカ半島が原産地の外来魚で、日本に初めて持ち込まれたのは1877年とされています。現在日本では北海道の一部に定着していますが、そのほかの地域では定着せずほとんどが放流魚となっています。
環境の変化に強く、適応能力が高いことから様々な場所で養殖も盛んに行われています。
本州で繁殖できないと言われてるワケ
先にも記載した通り、日本においてニジマスは北海道の一部の地域でのみ繁殖していますが、基本的には繁殖はできないと言われています。
というのも本州の河川で確認できるニジマスはほとんどが放流された個体で、繁殖した天然の個体は存在していないこととなっています。
というよりも、そもそも外来魚にも関わらず、本州で放流されるのがOKとなっている理由は、この魚が「自然繁殖しないから」「定着しないから」なのです。
ニジマスの生息できる環境は「夏でも水温が摂氏12度以下の冷たい水、特に流れが速く、酸素を多く含む川・冷水の湖」とされています。
環境の変化に強いため、22℃程度までの水温でも生息可能とは言われていますが、適温ではありません。
夏の水温がニジマスの生息可能水温を逸脱してしまうことから繁殖は難しいと言われています。
東北や高地ではどうなのか
ここで思うのが、東北地方のように気温の比較的低い地域や標高の高い高地の河川ではどうなのかということ。
もちろん夏場になれば水温は上がりますが、本州の河川に比べれば水温も低く、ニジマスの生息可能な水温の範囲内のような気もします。
しかし、それでも繁殖できないというのには、水温以外の他の可能性が考えられます。
それは繁殖はできても成長できないという可能性です。
一般的にニジマスは秋から冬にかけて繁殖行動を行いますが、低水温な地域(例えば、摩周湖では6月に産卵)では春から初夏にかけて繁殖行動が行われています。
しかし、6月以降の梅雨の時期に重なることで増水した河川の水量に耐えられず、成長しきる前に仔魚の段階で流されてしまい、成長することが出来ないのです。
ニジマスは遊泳力が無い
ニジマスに関しては仔魚だけではなく、成魚になっても日本原産のイワナやヤマメなどに比べ遊泳力が低く、増水に耐えることが出来ないと言われています。
過去に北海道に台風が上陸した際にもニジマスだけが岸に打ち上げられ、イワナやヤマメは一切打ち上げられていなかった事例もあるようで、このことからもニジマスの遊泳力が低い事が伺えます。
日本は四季があり、環境の変化が大きいため、外来魚であるニジマスはその変化に適応出来ず、繁殖することが出来ない可能性が高いというのが現状となっているようです。
しかし、これらの意見はあくまで可能性が高いものであり、具体的に繁殖できない理由がこれだ!というはっきりとした理由はまだ断定されていないようです。
一部の地域ではトラウトが繁殖している
今までの話では、北海道以外では一切繁殖はできていないような内容になっていましたが、実は本州でも繁殖している地域はあります。
具体的な場所は明記しませんが中部地方や東北地方には一部の河川でニジマスが定着していることが確認されています。
ニジマスの他にも管理釣り掘りで人気のあるブラウンントラウトも同様に本州でも定着が確認されています。
ですが、実はブラウントラウトは日本の侵略的外来種ワースト100にも選定されており、外来生物法において要注意外来生物として扱われています。
つまり、現在進行形で定着域拡大や生態系への悪影響が懸念されている生き物ということです。
既に、多くの河川に定着していまっている北海道では、北海道内水面漁業調整規則により道内において移植を禁止し、一部の流域では在来生物に与える影響についての調査や試験的な駆除も行われています。
あくまでも「定着してしまった」外来魚は、それだけで在来種に大きな影響を与える存在であることは間違いありません。
軽い気持ちで本州にニジマスが釣れる河川を増やしたいなどと考えて放流したりしては絶対にいけません。むやみな放流は犯罪行為ですので決して行わないでください。
<近藤 俊/サカナ研究所>