海上での手前船頭の釣りを始めたい方にとって、カヤックと2馬力ボートはいずれも有力候補。どちらも免許や船舶検査が必要なく、自分で所有できる自分専用の船です。今回は、カヤックと2馬力ボートを比較し、これから入門する方にとってのハードルの高さを検証します。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター・福永正博)
ハードルその8:知識
ここでは、ハード面の話題から離れて、知っておくべきことや心構えについてご紹介します。
複雑なものほど壊れやすい
カヤックは構造がシンプルなので、壊れる部分がそれほどありません。帰着困難になるのは、「パドルや足漕ぎドライブを破損したが、予備パドルを装備していなかった」、「ドレンプラグを閉め忘れて水没した」など、人間側に原因があるケースが大半です。
それに対して、2馬力ボートに積まれる「エンジン」は複雑な機械。故障する可能性を100%排除することはできません。エンジンが壊れてもオールを漕いで帰ればいいのでは?と考えるのは非常に危険です。
もともと幅広で抵抗の大きい2馬力ボート。風や潮流に逆らって、慣れないオールを必死に漕いでもたいして進みませんよ。沖に出ているときのエンジントラブルは、すぐさま漂流の危機に直結します。そのため、ある程度のトラブルは自力で解決できる知識が必要不可欠です。
操作や構造の基本は知っておく
そもそも機械的なトラブル以前に、入門者の方に見受けられるのが、エンジンの基本的な操作方法や構造を知らずに出船してしまうケース。
例えば、「キャブレター」とはなにか知っていますか?くわしく説明すると長くなるので省略しますが、知らない方は本やネットで調べておきましょう。
最近の自動車やバイクは、なにもかも自動で制御されていてボタンを押せばエンジンがかかります。しかし、シンプルで軽量、安価なことが求められる2馬力エンジンは、昔ながらのアナログ要素が残っている機械で、人間側が適切な操作をしないとエンジンがかからないことが普通に起こります。
筆者は、たまたま古いバイクが好きでメカニックの経験もあったので知っていましたが、最近の若い世代には「キャブレターなんて聞いたこともない」という方も多いでしょう。初出船する前に、基本的なことを勉強しておくか、せめて取扱説明書だけでも熟読しておいてください。安全性確保の最低条件です。
海上でのエンジントラブルに対処
2馬力ボートで釣行中に起こるトラブルの一つが、プロペラへの異物絡み。海藻や捨てられた漁網、自分が使っているPEラインなどがプロペラに巻きつくと、エンジンが動かなくなってしまいます。
エンジンを船上に引き上げて絡んだ異物を取り除くのですが、プロペラをはずした際に小さな金属の棒(シャーピン)や割りピンを紛失すると大変なことに。1個100円くらいのちっぽけな部品なのですが、これらがないとプロペラが空回りしたり、脱落したりしてしまいます。
エンジンの劣化も
そのほか、長期間使用しなかっただけでエンジンがかからなくなることもあります。おもな原因は、キャブレターの詰まりやガソリン自体の劣化など。対策は、保管する前にガソリンを抜いておくだけです。
知っていれば防止できるトラブルの良い例ですね。エンジンが致命的なダメージを負ってしまったら、さすがに海上での修理は不可能ですが、前もって知識を習得しておくことや、予備のパーツをもっておくことで、予防や現場対応が可能なトラブルはたくさんあります。
最低限のルール・マナーは知っておく
免許不要であることは、カヤックと2馬力ボートの大きなメリット。しかし裏を返せば、ルールやマナーを学ぶ機会がないまま海上に出てしまうため、デメリットともいえます。最低限、下に挙げたルールやマナーは把握しておきましょう。
ルール
・航路や港の出入口で釣りをしない
・他の船と向かいあったら右側によける。
マナー
・漁船や遊漁船に近寄らない。
・遊漁船が船を流しているコースへ入らない。
・岸釣りをしている人からじゅうぶんに距離をとる。
・勝手に漁港や公園の水道を使わない。長い時間独占しない。
・セーフティフラッグを装着する。……など。
相手の立場や一般常識を考えて、釣り人としてまわりに迷惑をかけないように気をつけましょう。トラブルや事故が起きると、出艇禁止や立入禁止になってしまい釣りができなくなってしまいます。
天候について知っておく
海の天気は変わりやすく、予報とはちがう状況になることもよくあります。かといって、どうせアテにならないと考えて予報も見ずに出艇するのは非常に無謀。
最初のうちは、複数の海況予報サイトを比較して傾向をつかみましょう。風速や波高がどれくらいならば出艇可能かわかってくるはすです。
一般的に、風速2m以下・波高0.2m以下くらいであれば、入門者の方でも安心して釣りを楽しめる海況ですが、そのエリアの地形や特性によっても変わるので一概にはいえません。
また、海上での判断基準を把握しておくことも非常に大事です。
例えば、
・「白波が立ち始めたら風速5mほど。安全性に不安が出てきて、釣りもしづらくなるので帰着の合図だな」
・「今日は南風が吹きだしたら強風予報なので、風向きの変化に注意しておこう」
など。
海況予報と現場の状況、どちらもしっかりと意識して釣りをすることが安全につながります。
いずれも知識は必要
2馬力ボートはエンジンに関する知識のハードルが高いといえます。ルールやマナー、天候に関しては、カヤックと2馬力ボートどちらにしても必ず把握しておきましょう。
ハードルその9:体力と機動力
カヤックか2馬力ボート、どちらにするか迷う大きなポイントが「どちらが体力を使うか」、「どちらが海上での機動力があるか」ではないでしょうか?
カヤックは体力が必要?
カヤックは人力で進むものなので、当然ある程度は体力が必要です。鳥山を追いかけて全力でダッシュすると、息が切れて汗もかきます。
とはいえ、釣りをしている間、常に漕ぎ続けるわけではありません。基本的に、最初に目指すポイントに到着したら、その後はカヤックを流しながら釣り、流された分少し戻るのをくり返し、大きくポイントを変えたくなったら長めに漕いで……というイメージです。
ベタ凪であれば、カヤックが流されずのんびりと釣りができて、それほど体力は使いません。
もっとも体力が必要とされるのは、不意に荒天になって岸まで戻るときです。沖へ沖へと流される状況では、休むことなく漕ぎ続けて無事に着岸しなければなりません。
風や波、潮流に逆らう場合、なかなかカヤックのスピードが出ないことを忘れないこと。普段の巡航速度は時速4〜7kmほどですが、海面が荒れると時速2〜3kmほどまでスピードが落ちます。
カヤックの機動力
意外と忘れがちなことですが、カヤックの機動面のメリットを感じるのは、ちょっとした移動や向きを修正するとき。いちいちエンジンを始動することなく、ほんの少し漕ぐだけで自分が思ったように動かせるので、釣りをする上で便利と感じる場面が多いです。
2馬力ボートは疲れない?
2馬力ボートで体力を使うのは、陸上での作業がほとんど。出艇してしまえば、エンジンで移動するので非常にラクです。恵まれた条件の場所から出艇できれば、それほど体力を使うことなく釣行を終えることができます。
巡航速度は、MAX時速8〜10kmくらい。もちろん、カヤックとちがい体力による制限がないので、長い距離でもそのスピードを維持することができます。
ただし、カヤックと同様に荒天時にはスピードがガクッと落ちるので、むやみに沖に出るのは要注意。毎年、2馬力ボートによる帰着困難事例も発生しています。
機動力は場面次第
体力面のハードルはカヤックの方が高いです。ただし、2馬力ボートは海上に出るまでに体力が必要なことがあります。機動力は、クイックさが必要な場面はカヤック、長距離の移動は2馬力ボートが優れています。
レンタルや体験会を利用する
カヤックか2馬力ボートか、どうしても決められないときや、買うかどうか決心がつかないときは、レンタルボートやカヤック体験会などを利用して、1度実際に乗ってみるのがおすすめです。
操作感や釣りのしやすさを実感でき、経験者の生の声も聞けます。許可を得て、カヤックをもち上げてみたりボートを引っぱってみたりできれば、より具体的に自分との相性がはっきりするでしょう。
購入するのは、その後でも全然遅くはありませんよ。
新たなフィッシングライフを!
ここまで読んでいただいて、「カヤックも2馬力ボートもハードルが多いな」という印象をもたれた方もいるかと思います。筆者としては、みなさんに失敗や後悔をしてほしくない一心で、いろいろと紹介しましたことをご理解ください。
これからカヤックや2馬力ボートに入門してみようとお考えのみなさん、ぜひともハードルを飛び越えて、新たなフィッシングライフを始めてみましょう!
<福永正博/TSURINEWSライター>