アサリやハマグリが消えた東京湾奥で「カキ(牡蠣)」が熱視線を浴びるワケ

アサリやハマグリが消えた東京湾奥で「カキ(牡蠣)」が熱視線を浴びるワケ

東京湾の一番奥にある干潟「三番瀬」で、なんと「カキ(牡蠣)」の養殖が始まろうとしています。一体どんな味がするのでしょうか?

(アイキャッチ画像提供:茸本朗)

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その他 サカナ研究所

三番瀬で「カキの養殖」が始まる

東京湾のいちばん奥にあたり、千葉県浦安市、市川市、船橋市にかけて広がる東京湾有数の干潟・三番瀬。江戸川放水路などの河口部にあたり、京葉工業地域の工場群に囲まれるこの水域で先日より「カキ」の養殖試験がスタートしています。

アサリやハマグリが消えた東京湾奥で「カキ(牡蠣)」が熱視線を浴びるワケ三番瀬(提供:茸本朗)

この養殖試験は、三番瀬で漁業を行う漁協がある船橋市と同市漁協とが千葉県と協力し、2022年12月から5カ年計画で取り組むというもの。干潟であることを活かし、海中に縄を垂らしてカキの稚貝を付着させる一般的な「カキ筏養殖」ではなく、干潟に立てた支柱にカキの稚貝が入ったカゴをぶら下げて育てる「支柱柵式カキカゴ養殖」を採用しています。

この方法で育てられたカキは、干満の差によって海面上に出たり海水中に入ったりするため、身が締まって味が濃くなると言われます。  

東京湾のカキは美味しいの?

高級食材として知られるカキは、生食できるものの、良くないものを食べると「あたる(中毒する)」危ない貝、というイメージも強いです。そのため「東京湾奥のカキ」と聞くと「安全なの?」とぎょっとする人もいるかも知れません。

しかし三番瀬のような内湾の干潟は、もともとカキの餌となるプランクトンが多く、カキの生育に大変向いています。筆者は三番瀬に棲息するカキを何度か食べたことがありますが、市販品より遥かに濃厚な味に驚かされました。もちろん中毒もしていません。

アサリやハマグリが消えた東京湾奥で「カキ(牡蠣)」が熱視線を浴びるワケ三番瀬のカキ(提供:茸本朗)

ちなみに、生食用のカキはその産地に関わらず、出荷前にかならず殺菌処理を施します。そのため今後東京湾産の生食用カキを食べることがあっても、リスクを気にすることはないでしょう。

なぜ「カキ」なのか

しかし、カキの産地は有名な広島や宮城など全国に存在します。なぜいま東京湾でカキの養殖をスタートさせる必要があったのでしょうか。

その理由として、東京湾は世界有数の大消費地である東京の前海であり、他のカキ産地と比べて輸送時間やコストの面で大きなアドバンテージをもっているということが挙げられます。これに加えて上記の養殖法により高品質なカキを生産することで、既存の名産地との戦いにも勝てるという自信があるのだと思います。

ただ、理由はこれだけではないでしょう。というのも三番瀬では、これまでの主要漁獲物であったアサリやハマグリ、バカガイなどがとれなくなってしまっているという現状があるからです。

アサリやハマグリが消えた東京湾奥で「カキ(牡蠣)」が熱視線を浴びるワケ 三番瀬のホンビノスガイ(提供:茸本朗)

2000年代になって獲れ始めたホンビノスガイすら、ここ3年ほどで急激に漁獲量が減っています。これは海洋温暖化による影響と言われていますが、環境破壊による赤潮や青潮の増加、そして乱獲の影響が大きいという指摘もあり、近年の東京湾の状況を見ていればそちらのほうがしっくり来ます。つまり、干潟を埋め立てすぎてもともといた貝類の養殖すらうまく行かなくなっているわけです。

今後三番瀬において、カキが主要漁獲物になればそれは素晴らしいことだと思います。しかしその前に、二枚貝資源の生息環境をここまで悪化させてきたことへの反省をする必要があるのではないかと思います。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>