ナマコの内臓から作る珍味「このわた」の生産が佳境に入っています。原材料のナマコのある特性を活かせば、「このわた」は理論上無限に作ることができるというのですが、そのわけとは果たして?
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「このわた」作りが最盛期
ナマコの内臓で作られる珍味「このわた」作りが、七尾湾に面した石川県七尾市で最盛期を迎えています。
このわたは、七尾市も含まれる能登地方の冬の味覚として高い人気を誇る食材です。七尾湾の今シーズンのナマコの水揚げも例年より少なめになっているといいますが、七尾市のこのわたはふるさと納税の返礼品などで人気の高まりを見せている。
このわたの生産は、例年3月まで続けられるそうです。
日本三大珍味の一つ「このわた」
古い時代には、ナマコは「こ」と呼ばれていました。水揚げされたナマコは乾物として流通するのが基本であったため、生の状態のものを「生こ」と呼んだのがナマコという名前の由来だと考えられています。したがって、このわたとは「ナマコのはらわた」という意味になります。
このわたは主にアカナマコ(マナマコの赤色タイプ)の内臓を取り出し、塩漬けにして作られます。珍味としては非常に知られているもので、とくに愛知県産のこのわたは福井の塩ウニ、長崎のカラスミと並び日本三大珍味のひとつに数えられています。
このわたは濃厚な風味と力強い磯の香り、塩辛さの中に独特な甘みがあり、酒肴として人気が高い食材です。歴史も長く、文献から平安時代にはすでに知られていたことがわかっています。
なお、同じナマコの内臓で作られる珍味のうち、卵巣で作るものは「このこ」と呼ばれており、より希少で高級な珍味となっています。
理論上は「無限に」作れる
ナマコの仲間には、刺激やストレスを受けると「口や肛門から内臓を出す」ものが多く見られます。このわたの材料となるマナマコもそのひとつです。
なぜそのようなことをするかというと、ナマコの内臓には毒成分であるサポニンが多く含まれており、捕食を忌避させることができるからです。加えてナマコ類は非常に高い自己再生能力を持っており、内臓を失ってもまた再生することができます。
そのため、もし仮にこのわたを作るためにナマコを採捕し、材料となる内臓だけを取り出したとしても、その個体を再び海に戻せばやがて再生します。つまり理屈上は、同じ個体から永遠にこのわたを作り続けることも可能であると言えます。しかし実際は、ナマコは筋肉にも高い利用価値があるため、わざわざリリースして再生させるというような行為が行われることはないと思われます。
ところで、ナマコは水質の良い場所でないと生息できない生物です。そのため近年の海洋環境悪化はナマコの生態に大きな悪影響をもたらしており、加えて世界的なナマコの需要増から乱獲が行われ、資源量を大きく減らしてしまっています。
美味しいこのわたを食べ続けるには、ナマコの内臓だけ採取するよりも、彼らが生息できる環境をしっかり保全することのほうが大事だといえるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>