岡山にある世界屈指の規模の締切湖・児島湖。水質汚染が長らく問題になっているこの湖で、あの高級食材が浄化に貢献しています。
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「汚さ」で知られる児島湖
岡山県に、世界屈指の規模の「湖」があることをご存知でしょうか。岡山市と玉野市に挟まれるようにして存在する「児島湖」がそれです。
児島湖は淡水の湖ですが、もともとは児島湾という細長い湾でした。湾の奥を堤防で締め切り、海水を排出していくことで淡水化するという方法で造られた人造湖なのです。
完成時は、締め切り堤防による人造湖としてはオランダのアイセル湖に次ぎ世界第2位の規模を誇りました。児島湖の水は農業用水として用いられ、農地の拡大に大きく貢献しました。
しかし、人口密集地帯に囲まれていたことや、瀬戸内地方特有の降水量の少なさ、農地に用いる肥料由来の窒素やリンなどの有機物の流入などの結果、児島湖の水質は完成以降悪化の一途をたどりました。昭和50年代には日本でも屈指の汚染された湖としてその悪名を轟かせ、現在でも汚濁の激しい湖沼のひとつとして知られています。
浄化に貢献するテナガエビ
児島湖の汚染は、有機物が多いことによるプランクトンの増加、そしてそれに伴う水中酸素量の減少が原因となっています。そのため、水中の有機物の量を減らすことで水質を改善することが可能です。
そこで今、注目されているのがテナガエビ。
テナガエビは、アクアリウムが趣味の人達の間では水槽の掃除屋「タンクメイト」としても知られているエビです。汚染された水にも強く、水中の有機物を旺盛に食べるため、水質の浄化に貢献してくれるのです。
岡山県では平成30年より、テナガエビのすみかとなる漁礁を湖内に設置し、その数を増やす試みを行っています。この魚礁によってエビが増えた際には、汚染につながる有機物の主成分である窒素やリンが約3割も削減できると試算されています。(『テナガエビが人工湖を掃除する 養殖で水質浄化に成果』産経新聞 2021.5.5)
漁業にも貢献
このテナガエビが役に立つのは、水質浄化という点だけではありません。
淡水性のエビでは屈指の大きさで、かつ味も大変良いテナガエビは、料亭などでも提供されることがある高級食材。今回の試みで増えたテナガエビは、漁獲もされ、唐揚げなどで消費されているのだそうです。
テナガエビを食べるのは我々ヒトだけではありません。例えば児島湖のウナギは「アオウナギ」と呼ばれ、全国の市場で珍重される高級品なのですが、彼らはテナガエビを盛んに捕食していると言われます。そのためテナガエビが増えれば、ウナギの数も増えるのではないかと考えられます。
このように、テナガエビは水質浄化だけでなく、漁業の面でも貢献してくれる存在なのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>