カキの名産地と言えば、広島県や宮城県など。ところが近年、東京湾でもカキの養殖が進んでいるんです。江戸前のカキについて調べて見ました。
(アイキャッチ画像提供:新富津漁業協同組合)
江戸前の海で始まるカキ養殖
木更津から富津にかけての海は、盤洲干潟と呼ばれる東京湾最大の干潟が広がり、遠浅になっています。そのため、古くからアサリ漁やノリの養殖が盛んでした。
しかし、ここ数年、これらの漁業は不漁を続けています。アサリに関しては、2007年頃のカイヤドリウミグモという寄生性ウミグモの発生を境に、生産量が減少の一途をたどっています。また、海苔に関しても、地球温暖化の影響によるノリの生育悪化がおこっていることや、後継者不足などの要因もあり、生産量が右肩下がりとなっています。
そのような逆風の中、新しい資源に目を向ける動きが出てきています。千葉県富津市の新富津漁協では、不漁続きのノリ漁を補うため、2018年から東京湾沖合のノリ養殖施設の一部を使ってカキの養殖を始めました。
クオリティは?
2018年シーズンは1年目だったこともあり、なかなか大きさも揃わず、小ぶりなものが多かったようです。しかし、身はふっくらとし、味も濃厚だったことから、富津市や近隣市の飲食店で評判になったようです。
2019年シーズンには新たに生食用のカキの養殖にもチャレンジしました。しかし、生食用カキを出荷するには、食品衛生法に基づいたある一定の基準をクリアしなければなりません。
この基準には、養殖を行っている海域の水質や、収穫後の処理などに厳しい基準が定められています。紫外線をつかった海水の殺菌装置を導入するなど設備投資を行い、2019年の冬に生食用のカキ出荷を開始することができました。
プロにも評価された江戸前カキ
現在、この「江戸前カキ」は10以上のお店で取引されています。その味の良さが評判を呼び、2020年に入ってからは、東京都内のフランス料理店や神奈川県内のすし店からも出荷依頼が来ています。いずれも評価は高く、東京湾で養殖したカキが地方の名産品に負けず劣らず品質であることに驚きも多いようです。
日本では瀬戸内海などを中心に、水深のある海中で牡蠣の養殖を行うことがおおいですが、フランスなどでは稚貝を干潟に撒いて行う養殖も盛んに行われています。遠浅で栄養分の多い干潟は本来、牡蠣の養殖にとても向いている場所だと言えるのです。
江戸前養殖カキの今後
販路を拡大中の江戸前カキは、4月末ごろまでに3万5千個ほどの収穫が見込まれています。昨年からは木更津市内の漁況でもカキ養殖が開始され、生食用も含めた生産量の増加を目指しています。
今後は、伝統のアサリやノリの水揚げ量の回復を目指すとともに、江戸前カキのさらなる品質向上、そして木更津での新たなブランド構築に大きな期待が寄せられています。
<近藤 俊・脇本 哲朗/サカナ研究所>