障害物のない広い海の上を進む船は、一見すると交通事故とは無縁そうに思えますが、実際は少なくない数の事故が発生しています。もちろん船同士の衝突事故もありますが、最近特に問題になっているのが船と「クジラ」の衝突です。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
船と海洋生物の衝突事故
今月4日、福岡県で一風変わった事故対応訓練が実施されました。その訓練とは「船と海洋生物の衝突事故」を想定したものです。
訓練では「博多と韓国の釜山を結ぶ国際線航路の船が海洋生物とぶつかって航行不能になってしまい、また事故によって乗客がけがをしてしまっている」というシチュエーションが想定されました。
訓練には福岡海上保安部や警察、消防、看護大学の学生などが参加。事故を起こした船を曳航するための連絡態勢や、乗客を避難させる際の誘導手順などを確認したそうです。
頻発する「船とクジラ」の衝突
実は全国的に、今回想定されたような「船と海洋生物」の衝突事故は発生しており、その発生件数は徐々に増えています。特に今回訓練が行われた博多・釜山間の航路が通る対馬海峡周辺ではたびたび事故が起こり、報道されています。
このような事故はいずれもクジラと思われる大型海洋生物との衝突が原因です。2006年には対馬海峡周辺で、3月の間だけでも3件の事故があり、いずれも人身被害が出ています。
対馬海峡以外でも、南九州や伊豆諸島周辺でしばしば事故が発生しています。このような事故では、国際的に保護されている種類のクジラが傷つけられてしまっていること、また船の側にも破損などで大きな経済的問題が発生することから、対策が求められていますが、まだ画期的な解決策が見つかっていないのが現状です。
なぜクジラにぶつかってしまうの?
クジラは魚類ではなく哺乳動物のため、空気呼吸を行うためにしばしば水面に浮上する必要があります。そこに船が通りがかることで衝突事故につながってしまうのです。
また対馬海峡周辺や伊豆諸島周辺は、小型の回遊クジラの回遊コースになっています。一方でこの海域を行きかう船の数は多く、必然的に不幸な出会いが起こってしまう機会も増えるのです。
加えて近年、船の高速化が進み、重要な航路では時速80kmにも達する高速船が導入されています。この速度で走行していると、クジラも船舶も互いに相手を視認してからでは回避することができず、また衝突時の衝撃も大きくなるため被害が大きくなってしまうのです。
事故を回避するため、クジラが嫌がる音を水中に流す装置を船に搭載したり、クジラの群れの情報を地域で共有し衝突可能性を減らすようなシステムが導入されているのですが、より効果的な対策法を見つけるべく研究が進められています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>