昨年、実に45年ぶりに再開された日本の商業捕鯨。なぜここまで間が空き、なぜ再開されたのでしょうか。そして今後はどうなるのか調べてみました。
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仙台で商業捕鯨のクジラ肉競りが実施
12月1日、仙台中央卸売市場で特別な競りが開催されました。販売されたのはクジラの肉、それも生のものです。実はこのクジラ肉、商業捕鯨によって捕られたものなのです。
当日上場されたのはイワシクジラの赤肉480kg、尾肉とウネス(下あごから腹部にかけての脂肪部分)各60kg。いずれも大型捕鯨母船の生産品なのですが、通常は沖合で長期間操業するため冷凍品しか生産しないそうです。今回は商業捕鯨の再開の記念、そして今後のクジラ肉消費拡大を喚起するべく、11月下旬に北海道東沖で捕獲したメスのイワシクジラの一部を、生のまま持ち込んだといいます。
上場先が仙台となったのは、捕鯨基地である鮎川に近く、今も根強いクジラ肉食文化があるからとのこと。当市場で商業捕鯨の肉が販売されるのは実に45年ぶりだといいます。(『生鮮イワシクジラ、仙台市場に限定入荷』日刊水産経済新聞 2020.12.2)
ほぼ半世紀ぶりに商業捕鯨肉が売られたワケ
日本は捕鯨大国でしたが、商業的な捕鯨は長らく行われておらず、調査捕鯨のみとなっていました。これは、クジラの国際的な管理を行う国際捕鯨委員会(IWC)に日本も加盟していたため。IWCでは「クジラ資源は捕鯨などが原因で減少している」として、1980年代に商業捕鯨の禁止を決議していました。
しかしその後はクジラ資源は回復していることが明らかになり、日本は商業捕鯨の再開を訴え続けてきたのですが、反捕鯨国の反対にあい実現できずにいました。「クジラは保護すべき動物で、食べるのは野蛮だ」とする欧米的な価値観がIWCを支配していたと言われています。
日本の水産庁は「豊富にあることがわかっているクジラという資源を科学的根拠に基づき持続的に利用するのは、海に囲まれた日本の大原則」と主張しており、結果として日本は2018年にIWCを脱退。2019年7月より商業捕鯨を再開しました。ここには「欧米の考え方を受け入れてしまえば、マグロなどほかの水産資源利用にも影響が出る」という水産関係者の危機感もあったと言われています。(『「大丈夫? 31年ぶりの商業捕鯨再開」(くらし☆解説)』NHK解説委員室 2019.7.2)
今後の商業捕鯨継続には不安も…
大手を振ってクジラを捕れるようになった日本ですが、捕鯨を続けて行くことに関して懸念がないわけではありません。
長年に渡る商業捕鯨の停止期間に、日本のクジラ肉消費量は大きく減衰。かつて「安くて美味しい肉」として愛されたクジラ肉ですが、全く口にしたことがないという人も増えてきています。豚や牛など安価で美味な肉が市場にあふれる中、クジラ肉が再びかつての消費量を回復できるのかは未知数です。
一方で需要が完全に死んでしまったということはまったくなく、冒頭で紹介した仙台市場の競りでは超高値が連発し、ご祝儀相場となったそうです。全国各地に残るクジラ肉食文化に再び日があたり、採算性が向上するのも決して夢物語ではないと思います。
クジラ肉はまた低カロリー高タンパクで栄養価が高いことでも知られます。健康志向の強い現代人の需要を満たす食材といえ、ここをフックにして需要喚起につなげることは可能でしょう。
いつの日か、また給食のメニューに「鯨カツ」が当たり前に登場する日が来るかもしれませんね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>