我が国では非常に多くの種類のエビが食用にされています。イセエビやクルマエビのように標準和名が広く知られているものが多い一方、地域的な通称で流通するものも少なくなく、ときに混乱のもとになっています。
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兵庫県で「地えびグルメ」キャンペーン
漁業が盛んで、ズワイガニなどの水揚げが多いことで知られる浜坂漁港がある兵庫県新温泉町。ここでは数年前より「地えびグルメ」というキャンペーンが実施されています。
このキャンペーンは新温泉町内で水揚げされる様々なエビを使った料理を「浜坂地えびグルメ」としてアピールするもの。数年前に町商工会が呼びかけ、漁師や仲買人、旅館、飲食店、土産物店が協力してスタートしました。
新温泉町では有名な甘エビのほか、希少な「鬼エビ」、透明感のある「モサエビ」、柄模様の入った「ガラエビ」といったエビが水揚げされており、これらをを使った様々なメニューを開発。今では町内の22もの業者が取り組む大型イベントになっているそうです。
町商工会は来年の3月までに「浜坂地えびグルメ」のホームページを開設し、PRを強化する予定とのことです。
モサエビは「猛者エビ」
日本で食用にされるエビは非常に種類が多く、その中には「伊勢海老」「車海老」などのようなメジャーなものだけでなく、全国的にはマイナーながらも各地で愛されている「ご当地エビ」と呼べるようなものも多いです。
前記のイベントでピックアップされている「モサエビ」もそのひとつ。標準和名はクロザコエビといい、その名の通り死ぬとすぐ黒く変色するためあまり流通に乗らず、甘エビなどと比べるとマイナーな存在です。しかしその味は甘エビをも上回るといわれ、水揚げ地の周辺では愛されています。
モサエビという通称の由来は、頭部の殻が鎧のように角ばっていることから。つまり「猛者えび」です。この呼名は西日本の日本海側沿岸のもので、その他の地域ではガスエビ、ドロエビなどとも呼ばれています。
「ガサエビ」「ボサエビ」とは違う?
さて、このクロザコエビですが、日本海側を北上した山形県周辺では「ガサエビ」と呼ばれています。そしてこれが混乱を生んでしまうことがあります。
というのが、山形県を含む東北地方日本海側では、ガサエビというと「シャコ」を指すことも多いのです。いずれも美味しい魚介ですが、エビとシャコでは味も用途も全く異なるので、購入時には確認が必要でしょう。
さらに、「モサエビ」「ガサエビ」に名前の似たものとして「ボサエビ」と呼ばれるエビも存在しています。これは関東周辺で、汽水域に生息するシラタエビなどの小エビを指す総称のひとつ。
彼らは障害物に集まる習性があるため、木の束やビニール紐をまとめてくくったものなど「ボサボサしたもの」を水に漬けて、そこに集まったものを漁獲する「漬け漁」が行われており、そこからこのような通称が生まれました。
このように、その由来に全く共通点が無いにもかかわらず結果的に名前の似ている3つのエビがいるというのは面白いですね。探せばまだ他にも、似たような通称を持つエビがいるかもしれませんね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>