「酒かす」でアユ育てる研究がスタート 日本酒との相性は間違いなし?

「酒かす」でアユ育てる研究がスタート 日本酒との相性は間違いなし?

日本有数の酒どころ山口県で「酒かすでアユを育てる」といういかにも左党の心をくすぐる研究が始まっています。

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サカナ研究所 その他

「酒かす」でアユを育てる?

県庁所在地を貫流していながら水質がよく、たくさんの希少動物を育む山口市の椹野川。ここを管理する椹野川漁協の仁保事業所で今月頭、とある飼料を用いたアユの養殖試験がスタートしました。

その飼料とはなんと「酒かす」。1カ月の間、250匹のアユに1日3回、酒かす入りのえさを食べさせるのだそうです。それぞれ連続10、20、30日間食べさせた3種類のアユについて、においや味、身の成分を分析し比較するといいます。この結果を踏まえて飼料の最適な配合を見つけると同時に、酒かすがアユの身のにおいや味にどのような変化をもたらすかを調べるとのこと。

「酒かす」でアユ育てる研究がスタート 日本酒との相性は間違いなし?酒かす(提供:PhotoAC)

当事業所では8月ごろにも1カ月間の試験を予定しているそうで、データの分析は同県下関市にある水産大学校と、長門市の県水産研究センターが行います。まさに県をあげての研究と言えそうです。

これらのアユは2023年度までの商品化をめざすといいます。(『アユの餌に酒かす、酔い感じ? 酒どころ山口で養殖試験』朝日新聞 2021.6.4)

なぜ酒かすなの?

今や世界的な知名度を誇る銘柄酒「獺祭」をはじめ、名だたる酒と酒蔵がたくさんある酒どころ・山口県。上記の「酒かすアユ」の研究は、日本酒の製造過程で大量に出る酒かすを有効活用しようという目的でスタートしました。

工業廃棄物である酒かすですが、各種のアミノ酸や糖などを含み栄養豊富なことが知られています。県水産研究センターによると、酒かすに含まれるアミノ酸のうち、アラニンやグリシン、グルタミン酸といった甘み、旨味の呈味成分が、それを摂取させた魚の風味も良くするのだといいます。

「酒かす」でアユ育てる研究がスタート 日本酒との相性は間違いなし?市販されている養殖アユ(提供:PhotoAC)

またこれらのアミノ酸には、魚臭さを消す効果も期待できるそうです。「酒かすアユ」は県産日本酒と合わせて食べるという需要も見込めそうですね。

アユの香りは「藻を食べる」おかげ?

さて、アユといえばその最大の魅力はやはり「香り」。漢字では「香魚」とも書かれるアユは、スイカやキュウリのような爽やかな香りがするのが身上です。

この香りについて、釣り人の間では「成長したアユは川底の石についた藻を食べるため、その藻の青い香りが移るのだ」という言説が実しやかに囁かれています。しかし実際のところ、この香り成分は体脂肪が分解されたときに出るもので、藻が直接的に作用しているわけではありません。

「酒かす」でアユ育てる研究がスタート 日本酒との相性は間違いなし?アユの塩焼きの光景(提供:PhotoAC)

そのため、アユは稚魚のときは藻ではなく水生昆虫などを食べるのですが、そのときもすでに同様の香りを持っています。さらにアユが属する「キュウリウオ科」の魚の多くにも似た香りがありますが、そのなかで藻を食べるのはアユだけです。

実際のところ、釣り人の言う「藻の質」よりも、酒かすのほうが遥かにアユの食味に影響を及ぼすでしょう。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>