五島列島で行われている「スケアン」という変わった名前の漁。実はかつて西南日本で広く行われていた「世界最古の漁」のひとつです。
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五島で親しまれる「スケアン」
長崎県の西方沖に連なる五島列島。その最大の島福江島にある海岸でこの時期、昔ながらの漁法「スケアン」を楽しむ人々の姿があります。
岩の浅瀬が続く浜で行われるスケアン。いまではこの漁を専門に行う漁師はおらず、レジャー用に設備が公開されています。レジャー客の相手をしてくれるのは主にイソスジエビで、川に棲むスジエビと近い仲間で、小型ながら味が良く喜ばれます。
獲ったイソスジエビはかき揚げや素揚げなどで食べられるため、多くの人が持ち帰るといいます。スケアンは例年、夏の終わりごろまで楽しめるそうです。(『昔ながらの漁法「スケアン」で小エビ獲り』長崎放送 2021.5.6)
スケアンとはどんな漁?
スケアンとは変わった名前ですが、これは一体どんな漁なのでしょうか。
スケアンは「スケ網」がなまったもので、五島以外の九州各地にも「スキ」の名前でこの漁が残っています。潮の満ち引きを利用した漁で、以下のような方法で行われます。
(1)遠浅の海岸の、潮が満ちると海面下になるような場所に石垣で堤防を作る
(2)潮が満ちたときに魚介類が入り込む
(3)潮が引くと石垣の内側に水たまり(タイドプール)ができ、そこから出られなくなる
(4)それを獲る
各地にのこる「石ひび漁」
このスケアンのような漁は、より一般的には「石ひび漁」と呼ばれています。漢字で書くと「石干見」で、石を積んで干潮を待つという意味合いだと思われます。石垣ではなくすのこを干潟に立てて満潮時に入り込ませる「ひび漁」は石ひび漁から派生したもので、今でも東京湾などで行われています。
石ひび漁は東南アジアから伝わり、主に九州や沖縄などの南日本で親しまれました。とくにサンゴ礁があり遠浅の海が広がる南西諸島以南は石ひび漁に適した海岸が多く、かつては盛んに行われてきたようです。
海外では今でも行われている地域もあるようで、台湾には石垣を二重三重に組んだより複雑なものもあります。こうなると定置網漁に近いものだといえるでしょう。
石ひび漁は干満の差を利用した非常に原始的な漁で、世界最古の漁とも言われています。前記の福江島には今でも何箇所かにスケアンの遺構が残されており、体験したければ(コロナ収束後に)福江島に行かれることをおすすめします。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>