温かい海の生態系を支えるサンゴ礁ですが、近年減少が著しく、世界中で問題となっています。そんなサンゴ礁の保全に「3Dプリンター」を用いて効果を上げている例が、香港にあるといいます。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
海洋生態系を支えるサンゴ礁
世界中の温暖な海にみられるサンゴ礁。サンゴ虫というポリプ(イソギンチャクのような生き物)が集まり、それぞれの形のサンゴを密集して作っていくことでサンゴ礁が形成されます。
サンゴ礁は外海の激しい波浪を止める天然の防波堤となるため、その内側は波が穏やかで水深も浅く、魚や小動物たちが生息するのに向いた環境が形成されます。また、サンゴ自体も小さな生物たちの生息場所になり、それらを捕食する大型動物も集まってきます。
さらに、サンゴ礁によってできる浅瀬には砂浜が形成されるため、砂地を好む生物たちも生息することができるようになります。このように、サンゴ礁はその地域の海洋生態系の土台となるとても重要な存在なのです。
世界中で危機を迎えるサンゴ礁
そんな大切なサンゴ礁ですが、一方でいまサンゴ礁は世界中で危機にひんしています。その原因は各種の環境破壊。
例えば、陸での乱開発等により表土が露出すると、陸上の土壌が直接海に流れ込み、海水を濁らせてしまいます。それによりサンゴが光合成や呼吸することができなくなってしまうのです。
また、海洋汚染により海の富栄養化が進むと、プランクトンが増えて海水の透明度が下がり、サンゴの生息に向かない環境になります。温暖化による水温上昇のために、サンゴが光合成のために共生させている褐藻虫の働きが活発になりすぎており、これもサンゴ礁の崩壊につながっていると言われます。
これらに加え、海水浴客の日焼け止めの成分やマイクロプラスチック、天敵であるオニヒトデなどもサンゴ礁の減少に拍車をかけているとされ、地域によっては9割以上のサンゴ礁が消滅してしまったような場所もあります。
サンゴ礁を救うのは「3Dプリンター」!?
そんな「サンゴ礁がピンチに陥っている地域」のひとつに、香港があります。
アジアを代表する世界都市のひとつである香港ですが、その周囲の海では84種前後ものサンゴが確認されています。しかしここでも近年、上記のような理由でサンゴ礁の減少がおこり、問題になっているといいます。
そこで香港周辺の海域では、香港大学の海洋学者たちのチームにより、サンゴ礁を回復するためのとある実験を実施しています。それは「粘土を材料に3Dプリントで作製されたタイルを焼き固め、これを用いてサンゴの保護および回復を試みる」というもの。
死んでしまったり弱ったりしてしまったサンゴの再生には、生き残っているサンゴの幼生が定着するための場所が必要となります。基本的には既存のサンゴがその役割を果たすのですが、減少が著しい場所では土台となるサンゴそのものがいなくなってしまっています。そこで、3Dプリンターで作ったサンゴ型のタイルによって、そのような環境を提供するのです。
3Dプリントであれば、タイルを置く場所の環境に応じて、形や大きさ等に必要な調整を施すことができます。タイルの上に定着したサンゴの生存率については約90%とされ、既存の移植方法よりも確実に高いということです。(『サンゴ礁保全・再生への取り組みで3Dプリンター活用 香港』AFPBBニュース 2021.5.4)
ときに「銃を密造」といったような物騒なニュースも見かける3Dプリンターですが、このような形で自然保護に貢献しています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>