新型コロナウイルスの影響で乗客が激減している東北・上越新幹線で、昨年秋より試験的に「鮮魚輸送」が開始。実は日本の歴史上「鮮魚を輸送する超特急」は初めてではないのです。
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新幹線で鮮魚輸送
JR東日本が、新幹線を使った鮮魚の貨物輸送に、本格的に乗り出すことになりました。昨年10月より、試験的に車内販売用のスペースに鮮魚などを積み、仙台駅から東京駅まで定期輸送を始めていたのですが、今後はさらに規模を拡大していくと見られています。
鮮魚輸送が行われている路線の1つである東北新幹線では、宮城県石巻市で水揚げされた新鮮な魚や貝類が輸送されています。物流会社はJR東日本のグループ企業が引き受けており、鮮度を保ったまま東京駅構内の飲食店に届けることが可能。現状では1便で段ボール約40箱ほどの輸送が可能だそうです。
現在、鮮魚輸送を行うのは週2便となっていますが、将来的には増便も見込んでいます。新型コロナウイルスの影響で乗客が減り、激減した鉄道収入を「鮮魚便」の利益が下支えすることに期待が寄せられています。(『鮮魚も運ぶよ、新幹線 JR東日本、仙台~東京で開始』共同通信 2021.1.7)
鮮魚輸送に向く高速鉄道
現在、鮮魚輸送の主力はトラックなどの自動車です。
自動車は漁港から市場、戸先へと小回りのきく輸送ができ、また設備投資が安く済むという利点がありますが、一方で渋滞などの道路状況で輸送時間が左右されてしまうという欠点もあります。また、道路状況の悪いところでは、振動も荷物に悪影響を及ぼします。
一方で、新幹線などの高速鉄道の強みは自動車とは真逆です。仙台から東京まで1時間半で結ぶ速さは他の交通機関では真似ができませんし、日本の鉄道には世界に誇る時間の正確さもあります。また、高速鉄道は振動を防ぐためにロングレールが用いられており、振動も少ないです。本格的な輸送設備を整えれば、一度に大量に輸送することも可能でしょう。
これらの点から、高速鉄道は鮮魚輸送というジャンルで大きなポテンシャルを持っているということができます。
過去には鮮魚専門貨物列車も
しかし実は、鮮魚輸送に高速鉄道が用いられるのは、今回の新幹線が初めてではありません。我が国における本格的な「列車による鮮魚輸送」の歴史は20世紀初頭まで遡ることができます。
日本史上初の冷蔵輸送車である「レ1形貨車」が誕生したのは、今から100年以上前の1908年、明治41年のこと。主に鮮魚輸送に用いられたそうで、輸送用の冷蔵車両は漁港近くに常備され、大都市の「市場駅」同士を結んでいました。
その後、太平洋戦争中は冷蔵輸送は一時的に衰退しますが戦後になると復活し、1960年代には、鮮魚貨物列車「とびうお」「ぎんりん」が誕生。これらは時速100kmという高速で西日本の漁港と東京や大阪などの大都市を結び、まさに今の「鮮魚新幹線」の原型とも言える存在でした。
しかし各地の高速道路網が発達したことにより、鮮魚輸送は鉄道から次第にトラックに取って代わられるようになったのです。
ただ21世紀になり、冷蔵技術がより発達したことで「鮮魚志向」が上昇。かつては生で食べられるようなことがなかった魚も刺身や寿司にされることが増えてきています。より高速・好条件での鮮魚輸送が求められているいま、「鮮魚列車」が見直されるのは自然なことなのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>