生物が生存する上で必要不可欠とも言える「五感」。しかしサカナは五感に加えて「側線」と呼ばれる特殊な器官を持っていることをご存じでしょうか。側線の役割を知ると、普段目にする魚も少し面白く見えてくるかもしれません。
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サカナが持つ基本的な感覚
私たち人間は、「視覚」「嗅覚」「聴覚」「触覚」「味覚」の五つの感覚【五感】を使って日々生活を送っています。しかし、生き物の種類によっては受け取れる感覚の数やその大小が異なります。
例えば犬だったら嗅覚がとても鋭かったり、コウモリは音波を感じることが出来ます。身に着けている感覚や優れた感覚は動物によって様々ですが、発達している感覚に頼って生活を送っているようです。
魚種にもよりますが、「視覚」「嗅覚」「聴覚」「触覚」「味覚」の五覚はサカナも私たち人間と同様に持っていると考えられています。
さらに、一部のサカナは全身に味覚を持っていたり、人間には見えない光を感知できるなど、それぞれの生息環境に合わせて進化をしてきました。
生息環境に合わせて進化
多くのサカナは遠くの情報を知るために主に視覚、嗅覚、聴覚の3つの感覚を使います。更に生活する環境に合わせてそれぞれの感覚を発達させています。例えばマダイの多くは日中に活動するため、目から入ってくる視覚情報に頼って生活をしています。
反対にナマズのような夜行性のサカナは視覚よりも嗅覚や聴覚が発達しているので、暗闇でも獲物を捕食することができるのです。
サカナが持つ第六感「側線」
サカナは五感に加えて第六感とも言える「側線(そくせん)」という感覚を持っています。
側線の概要
側線とは魚類が水中で水圧や水流の変化を感じとるための器官だと考えられています。サカナの体の側面にあることから側線と呼ばれ、通常は左右に一本ずつが対になっているのですが、一部には二対以上の側線を持つサカナも存在します。
横から見た場合、側線はエラから尾鰭に向かって並んでおり、パッと見では線や模様のように見えますが、実は側線はごく小さな穴が並んだ点線のようになっています。さらに、側線の上に並んでいる鱗のことは側線鱗(そくせんりん)といい、側線と同様に小さな穴が開いています。
この穴の数はサカナの種類によって決まっており、例えばメバルでも「アカメバル」なら40個、クロメバルなら45個と同じメバルでも数が異なり、細かい種類の判別に役立っています。この数を側線有孔鱗数(そくせんゆうこうりんすう)と呼びます。側線は体の側面の他にも、顔の周囲にも多く存在し、様々な機能を果たしています。
側線の役割
この側線はサカナにとってレーダーのような役割をしており、「水圧」「水流」「水の振動」「音」などを感じることができ、非常に繊細で敏感な器官になっています。
水族館で泳ぐサカナたちがガラスにぶつからないのはこの側線のおかげだと考えられています。イワシなどの小魚が群れを作って泳ぐときも、お互いに常に一定の間隔を保っていてぶつかることはありません。
急に方向転換してもすぐに付いていけるのは、側線というレーダーが常に機能しているからなのです。
サカナの側線が発達した理由
水中は地上に比べて光が通りにくく、100m先には光は届きません。水中では自分の上下左右に脅威が潜んでいるため、あらゆる方向に対してアンテナを張っておかなければなりません。
そのため、視力ではない他の機能に頼らなければならず、第六感とも言える「側線」が発達したと考えられています。実は側線は魚類だけが持っているわけではなく、水中に住む爬虫類も持っています。
しかし、地上に生息している爬虫類の側線は退化して消え、その後の進化の過程では「耳」ができ、音である振動を感知できるようになりました。そのため、進化の過程で再び水に戻ったクジラなど哺乳類には側線は必要が無く、再生しなかったと考えられています。
しかし、クジラの場合も外敵の脅威がある事は同じなので、側線ではなく頭部の「メロン」という器官を発達させ、エコロケーションというソナーのような機能を身に付けました。
側線は未だ謎が多い
側線が外界からの様々な刺激を感知していることはわかっていますが、実は未知の部分が多いのも事実です。
近年では側線によって振動の他に電気も感じることができ、視力の弱いサカナが捕食をする際、近くで動いた生き物の筋肉から発せられる微弱な電磁波を感知し捕食していると考えられているのです。
もしかするとサカナは私たち人間が知ることができないものまで感知している可能性があります。側線の穴の数だけ未知のロマンが詰まっているのかもしれません。
<引用資料:「魚の聴覚および側線感覚」>
<近藤 俊/サカナ研究所>