「宝石」とも称される美しさを持つ、日本原産の「ニッポンバラタナゴ」。絶滅の危機に瀕している同魚のちょっと変わった生態を紹介します。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
『ニッポンバラタナゴ』の美しさ
春になると体の色が宝石のように美しくなるサカナを皆さんはご存じですか?
その名も『ニッポンバラタナゴ』。
体長は2~4cm程度と小さい銀色の見た目をしています。
しかし、3月~5月ごろになると、バラタナゴは産卵期に入り、メスにアピールするため、オスの体が婚姻色に変わります。
その色は、名前にもあるように光沢のある「バラ色」や「紫色」になり、腹びれも黒く縁取られます。
その色があまりにも美しいため、ニッポンバラタナゴは古くから「宝石」と呼ばれて愛されてきました。
生息エリア
このサカナは以前は日本全国の河川やため池などどこにでも生息していましたが、今現在は琵琶湖淀川水系より西の本州と四国北東部、九州北部にしか生存していません。
ため池や沼、農業用水路でも、ある程度の水深があるところなら問題なく生活することができます。
しかし、体も小さいため、あまり流れの速いところは好まず、止水域を好む傾向があります。
いま絶滅の危機に
実は現在、ニッポンバラタナゴは環境省の設けたレッドリスト・絶滅危惧種IA類(CR)として指定されています。
地方自治体でも保護や養殖などが行われていますが、一部の地域ではそれでも既に絶滅が確認されており、九州北部のほか、大阪府、兵庫県、岡山県、香川県にあるため池などが唯一の生存場所となっています。
「え、これ近所の池にいるけど」
そう思った方もいるかもしれませんが、実はそれはニッポンバラタナゴではなく、タイリクバラタナゴというサカナかもしれません。
絶滅と言っても、ため池からバラタナゴがいなくなってしまったわけではないのです。
外来魚であるタイリクバラタナゴが日本の各地に中国から移入されてしまっことで、ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴが入れ替わってしまいました。これはタイリクバラタナゴの方がわずかに成長スピードや産卵の時期が早かったことなどが理由と考えられています。
また、そうでない地域でも、ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴが交雑してしまい、純粋なニッポンバラタナゴがいなくなってしまったというケースもあります。
これを【遺伝子汚染】といいます。
実はいま、ニッポンバラタナゴだけではなく、その他のサカナ、果ては植物でも同様の遺伝子汚染の問題が起きているのです。
もちろん、絶滅に瀕しているのは遺伝子レベルの話だけではなく、オオクチバスやブルーギルなどの外来魚によって捕食されてしまい、バラタナゴそのものが少なくなっているのも事実です。
ちょっと変わった産卵方法
さて、絶滅の危機に瀕しているニッポンバラタナゴですが、彼らは一風変わった方法で産卵を行います。
産卵はまず、バラタナゴのオスが、ドブガイやタガイなどの二枚貝周辺に縄張りを作るところから始まります。
そして、オスは体を婚姻色に変化させ、メスにアピールをし、二枚貝に誘導します。
見事カップルになると、メスの産卵管という器官が発達します。そしてその産卵管を貝の出水管に入れ、卵を産み付けます。卵は1〜3日で貝の鰓の中でふ化し、3~4週間程の間は貝の中に留まり、その後貝から出て泳ぎだします。
小さいサカナが外敵から捕食されないように考え抜いた産卵方法なのです。
日本固有種を守ろう
ニッポンバラタナゴはその数が減っているため、野生の個体を捕獲してはいけない希少野生動植物保護条例などが定められています。
この世界から一種のサカナが姿を消してしまう可能性があるというのは、非常に悲しい事です。
ニッポンバラタナゴと同じようなことを起こさないためにも、私たち人間一人一人の行動が問われています。
<近藤 俊/サカナ研究所>