大学と飲食店が共同で『オキアミ』をメニュー化 釣りエサが世界を救う?

大学と飲食店が共同で『オキアミ』をメニュー化 釣りエサが世界を救う?

文京学院大学・外国語学部の渡部吉昭准教授が指導するゼミナールの学生は今年9月、釣りエサのオキアミを使用した料理を考案し、飲食店でのメニュー化に成功した。釣り人としては単なるエサである「オキアミ」が食糧危機解決の糸口になるかもしれないという。渡部准教授と学生に話を聞いてみた。

(アイキャッチ画像提供:文京学院大学)

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釣りエサ代表『オキアミ』の概要

大学と飲食店が共同で『オキアミ』をメニュー化 釣りエサが世界を救う?エビみたいだけどエビじゃない(撮影:TSURINEWS編集部 四家)

釣り人にはおなじみのエサであるオキアミは、3~6cmの大型動物プランクトンで、エビやカニなどと近い仲間。外見はエビそっくりで、海だけにいるのが特徴だ。寿命は最長6年程度。

世界中の海にいてあらゆる生き物に捕食されている。日本で資源として利用されているのは主に北太平洋に生息しており日本でも獲れる「ツノナシオキアミ」と、南極海の「ナンキョクオキアミ」。後者は地球上で資源量(重さ)がもっとも多い生き物と言われている。

大学と飲食店が共同で『オキアミ』をメニュー化 釣りエサが世界を救う?付けエサ用として売られているタイプ(撮影:TSURINEWS編集部 四家)

世界中に生息していることもあって、釣りエサとしても幅広く活用されている。手軽なアジ釣り~マダイやキハダマグロまで使える万能エサで、ハリに付けることもあれば、魚を寄せるために使用することもある。釣具店の冷凍庫内で、四角いブロックや小分けできる入れ物に入って販売される。また、ボイル(茹でたもの)と生、薬品加工などのタイプに分かれ、長持ちしたり魚の食いがよかったりするなどそれぞれ違う。海水、淡水問わず観賞用など飼育下にある魚の乾燥エサとしても販売されている。

似たようなものに「アミエビ」があるが、こちらは一部を除きオキアミより小さく、釣りエサに使うものは数mm程度。基本的にハリにはつけず、水中に撒いて魚を寄せるエサとして使う。種別的にはアミ目といい、1000種類ほどいる。

大学と飲食店が共同で『オキアミ』をメニュー化 釣りエサが世界を救う?マダイはオキアミが好き!?(撮影:TSURINEWS編集部 四家)

文京学院大学が『オキアミ』有用性を研究

一部の国や地域で起きている食料不足が人口の大幅な増加や地球温暖化、異常気象などを原因として深刻化。世界中で食料調達が困難になる可能性があると考えられている。その対策としてこれまで食材には使用されてこなかった資源を利用するなど、問題を回避するさまざまな研究や試みが行われている。

文京学院大学・外国語学部の渡部吉昭ゼミは、「食糧危機の解決策としてのオキアミ活用」をテーマに、オキアミの未利用資源としての有用性を実証する研究を行った。未利用資源のうち、オキアミのほか昆虫、クロレラという藻の仲間が候補に挙がったが、「資源が豊富」「安い」「栄養価が高い」という条件を満たしていたオキアミが最も適していると判断。日本が海に囲まれた海洋国家であることも、海洋資源であるオキアミを選んだ理由になったという。

栄養豊富な『オキアミ』

オキアミはたんぱく質やカルシウム、ビタミン類などを多く含み、実は栄養価が高い(文部科学省・日本食品標準成分表参照)。また、ガンやアレルギーなどさまざな病気の予防・抑制に役立つと言われサバやイワシなども持つDHAなどのオメガ3系脂肪酸や、エビやマダイの赤色の元で免疫力を上げたり老化抑制をしたりすると言われるアスタキサンチンという成分が含まれている。そのため、サプリメントの原料にされることもあるそうだ。

学生が飲食店とコラボしメニュー化

学生らは岩手の水産加工会社でオキアミについて学習。アドバイスをもとに、食用メニューを考案、試作した。そして飲食店にアポを取りメニュー導入の提案を行った。

大学と飲食店が共同で『オキアミ』をメニュー化 釣りエサが世界を救う?パワーサラダ(提供:文京学院大学)

2019年9月2日~15日の間、文京区根津駅近郊にあるイタリアンレストラン「Ciao!!centro」で「パワーサラダ」、「日本酒バル&カフェ坂ノ下ノオリゼ根津」で「オキアミ×いも餅」と「オキアミ×焼きビーフン」としてメニュー化、実際に提供が行われた。パワーサラダは6日間で11皿の注文があり、「もりもり食べられる」など反応が良かったという。文京区小石川の「ベトナム Bistro Ving field」では「パップサオ」、文京区向丘の「表参道生春巻倶楽部」では「麻婆豆腐ライス」がメニュー化された。

大学と飲食店が共同で『オキアミ』をメニュー化 釣りエサが世界を救う?麻婆豆腐ライス(提供:文京学院大学)

実は筆者も社内の企画でエサ用オキアミの空揚げを食べたことがある(エサ用オキアミを食べることは推奨しません)。味は揚げてから時間が経過していたためか、正直おいしいとは思えなかった。一部スタッフからは「普通にうまい」との声もあったので、人によるのかもしれないし、そのままではなく、料理の素材の一つとなれば、また違ってくるのかもしれない。

詳細は「主婦の気まぐれレシピ:釣りエサ代表『オキアミ』のから揚げ!」から読む。

コラボした店の反応は上々

大学と飲食店が共同で『オキアミ』をメニュー化 釣りエサが世界を救う?パップサオ(提供:文京学院大学)

導入した店舗からは、「簡単に手に入るし、エビの代用にできるので使用していきたい。また、香りも味もエビと変わらず、少ない量でエビよりも香りを引き立たせることができるので、使いやすい食材だった」と、エビの代替品として一定の評価を得たようだ。

しかし、渡部准教授は「学生が飲食店にメニュー導入の提案を行った際にも、『エサのイメージがあるので』という理由で断られたケースが多く、食品として認識のないものを使用することに抵抗感が強かったように思う。一方で、海外ではキムチなどに活用する例がアジア圏であった」とコメント。今後、イメージの払拭が課題になりそうだ。

食材として課題は多いが、可能性はある

渡部准教授よれば、オキアミの資源量は豊富なためサステナブル(持続的)という観点から考えた際には有効で、十分な栄養分があることから食用としても有用性があるという。ただ、オキアミ漁専用の網が必要で、加えて船・漁師・加工者が担保できないと発展は難しいと指摘し、「経営戦略の観点から考えると全世界レベルでのオキアミの食糧化は容易ではないともいえる」とのことだった。漁や食品加工における課題はあるが、この問題を改善すればただの釣りエサから世界を救う食材へと変化するかもしれない。

複数言語で情報発信

学生らは今回の取り組みについて「飲食店に活動内容について理解してもらうことが難しかった。もう少し協力的かと思っていたが、実際はビジネス目線での判断が下されることが多く、オキアミの有用性を理解してもらい、メニュー導入の交渉まで行うことが大変だった」と、ビジネス視点の提案に苦労したとコメント。

外国語学部の学生ということもあり、ハングル、中国語、英語ができるゼミ生がいることの特性を生かして、SNSを活用してオキアミの認知度向上のため、各言語でメニューを紹介するPR活動を行っているという。

大学と飲食店が共同で『オキアミ』をメニュー化 釣りエサが世界を救う?研究に参加した学生たち(提供:文京学院大学)

釣り人にとっても身近な問題

釣り人視点で言えば、もしオキアミが食糧危機を救う食料になったとき、釣りエサとしてのオキアミが消滅してしまうことが心配だ。世界がそのような状態になっていたら釣りどころじゃない気もするが・・・。釣り人にとって、資源や環境の問題は他人事ではない。オキアミが食糧危機を救う必要がないように、微力ながら(釣りすぎるなど)足元レベルでの資源管理については考えたいものだ。

<TSURINEWS編集部 四家>