大阪湾の波止釣りシーンでは欠かすことができないチヌの釣り方といえば落とし込み。そして、この釣りで定番となっているのが波止の壁面をきっちりとエサがキープできる「スライダー釣法」だ。手慣れたベテランなら身に付いているこの釣法だが、今さらながら聞けない基礎の基礎、考え方をスライダー釣法生みの親である中武幸司さんを取材した。
スライダー釣法の概要
落とし込み釣りは日中にいとも簡単にチヌが釣れるとして、30年以上前に急速に広まった波止釣りの一大ジャンルである。
この釣りの基本的な概念は、波止の上層や中層の壁面に付いている貝や甲殻類などが波などによって剥がれ落ち、壁面に沿って沈下するところをチヌが待ち受けていて捕食する習性を利用したもの。
現在では、エサや狙い場所をかえることで、年間を通じて楽しめる釣りとしてフリークも非常に多い。特に夏場に向けて、潮間帯(潮の満ち引きで水没、露出を繰り返すエリア)にイガイがびっしりと付着するころがもっともいい時期となる。
オーバーハング攻略に最適
落とし込みの釣り場としては、追う腕部や港湾部や一文字などの垂直護岸がメインとなる。が、一概に垂直護岸と言っても、少し下の方でオーバーハングになっているような護岸の形状も多く、特にオーバーハングになっている場所はチヌが身を隠すことができるのでいいポイントとなる。
ただ、エサを壁際に沿って落としていくと、オーバーハングの部分に差し掛かると、へこんでいる分、壁からエサが離れて落ちてしまうことになる。そこで、エサを横にスライドさせることでオーバーハングの部分でも奥の壁に沿ってエサを落とし込める。これがスライダー釣法の基本概念だ。この釣法が生まれてから、垂直護岸でもオーバーハングでもエサを壁に沿わせやすくなった。
スライダー釣法生みの親
大阪・南港、堺港を中心に活動する中武さんは古くからの落とし込みフリークとして全国的に知られたチヌ釣り師。
現在も若手落とし込み釣り師から先生、師匠として慕われている存在だ。落とし込み釣りだけではなく、波止では一年を通してタコエギ、サビキ、タチウオなどを楽しみ、冬場には磯のグレ釣りにも足繁く通う。
堺港沖波止のセル石へ
今回は中武さんに同行して大阪・堺出島から出船する夢フィッシングでセル石へと渡った。このセル石は大和川河口に面する全長約1.4kmの護岸で、チヌの魚影が濃く落とし込みでは広範囲に探ることができる好ポイントとなっている。
そして、セル石全体にオーバーハングとなっていて、干潮時にはへこみ部分が現れる。ただ、潮位が高い時間帯に見ると、ごく普通の垂直護岸となっていて、勘違いする人も多いようだ。
中武さんのタックル構成
まずは中武さんのタックル、アイテムをチェック。サオは以前は落とし込み専用ザオを使っていたが、現在はボーダレス380M-Tを使用している。ボーダレスは波止用に設計されたサオながら、ルアーのシーバスから磯のグレまで、魚種、釣法を超越した設計で、その名の通り「境界がない」サオ。
「このサオはちょっと胴に乗る感じやけど、掛けてからのやり取りがもの凄く面白いサオ。それでいて年無しクラスでも真っ向から勝負できる」と中武さんは話す。これに落とし込み専用リール、ミチイトは2号、目印の仕掛け部分は自作で図のような設計だ。
ハリのサイズは6種類
幅広く準備しているのはハリのサイズ。伊勢尼を基本として、6、7、8、9、10、12号の6サイズを用意している。ハリの大きさの決め手となるのは、エサの大きさ。つまり使用するエサ(=釣行時に、その場所でチヌが好んで食べているイガイの大きさ)に合わせてチョイスする。
イトオモリの巻き方
スライダー釣法の場合はハリのチモトにオモリを打つのではなく、ハリの軸にイトオモリを巻き付けてオモリのかわりとする。その理由は、イトオモリを巻くことでハリとオモリが一体化し、そのままイガイの中にオモリ&ハリを埋め込むことができるからである。中武さんの場合は0.8mmのイトオモリを4回巻き付けるのが定番とのこと。また、貝の殻の中に入れやすいように、巻き付けたイトオモリをプライヤーなどで平たく潰すのも工夫だ。
スライダー釣法の基本となるエサはイガイである。イガイの中にイトオモリを巻いたハリを入れ込むことで、イガイが単体で壁に沿って落ちていく様を演出する。そのため、小さなイガイに大きなハリを入れるのは難しいし、その逆の場合はイガイからハリがすっぽ抜けてしまうこともある。
ちなみに、そのバランスをわざと崩すときもあるそうで、それはスピード変化を付けたいとき。基本的には大きなイガイほど沈下速度が速くなるので、沈下の速度を上げたいときには大きめ、遅くしたいときは小さめのイガイを使うが、「僕は基本的に小さなイガイが好きやねん」とは中武さん。