前回の「分類学上サケとマスは同じ 日本で見られる4属を徹底解説(2/8)」では、日本で見られる4属を徹底解説した。今回は進化と食性から降海型と河川残留型について説明していこう。
サケ科は未だに謎ばかり
サケ科の魚類はいつ、どこで生まれたのだろうか。淡水魚類が海へ進出したものなのか、海水魚類が陸封されたのか。長い間、両論が議論されてきたが、未だにその結論は出ていない。
現在の定説としては、カワカマスの仲間より原始的なイトウが発生したとされている。そのなかからイワナの仲間で最も古いとされるレイクトラウトが発生してイワナの仲間へと分化。サルモ属が発生したとされる。
さらに、北極海を経由して北太平洋に進出したものがオンコリンクス属へと進化した。それが、カットスロート(アメリカ西部に古くからいる魚)やニジマスだ。
それらが、古日本海に進出してサクラマスが発生、ギンザケ、マスノスケが分化。ベニザケ、カラフトマス、シロザケへと進化していったと考えられている。
サケ科の進化と降海型
サクラマス
分類学上、非常に重要な種がニジマスの仲間である。
オンコリンクス属の起源種とされる種で、それ以前に発生した種の多くが、川と海を何度も行き来し複数年に渡って産卵する。しかし、それ以降に発生したサクラマスやギンザケ、シロザケは1回の産卵でその一生を終える。
また、進化が進むにつれて海洋への依存性が高く、ニジマスやサクラマスが河川残留型と降海型がいるのに対し、それ以降に発生した種のすべてが降海型のみである。
加えて、サクラマスの海洋生活は半年から1年ほどなのに対して、ベニザケやシロザケは一生のほとんどを海で過ごす。
スチールヘッドやサクラマスが河口近くの海を回遊するのに対して、ギンザケやマスノスケは外洋に出て回遊、カラフトマスやシロザケでは千島列島、ベーリング海、アラスカ湾と外洋を広く回遊することが知られている。
進化したサケ科魚類ほど、長時間かつ広範囲に海を利用している。
サケ科の食性
もう1つには食性がある。
河川残留型では、水生昆虫や小型の魚類を中心に捕食するのに対して、アトランティックサーモンやシートラウト(降海型のブラウントラウト)、ギンザケでは魚食性が高くなり、小型の魚類や頭足類を好んで捕食。
カラフトマスやシロザケでは、それらに加えて、オキアミやヨコエビ、カイアシ類、クラゲ類のような大型の動物プランクトンも捕食している。
海洋依存性が高くなった種ほど、エサの多様性がみられる。
これは、クジラやサメと同様、原始的なものほど魚食性が高く、進化するにつれてプランクトンや小動物などを捕食するようになるなど、より効率的な摂餌行動を取るようになっていったものと推測される。
河川生活と海洋生活には大きな違いがある。
河川では外敵が少ないがエサも少ない。一方、海洋では、エサは豊富だが外敵が多い。すなわち、ローリスク・ローリターンを選択するか、ハイリスク・ハイリターンを選択するかだ。
河川残留型と降海型のいる種では、成長の早い個体が河川に残り、成長が遅れた個体が海へ下ることが知られている。
そして、海へ下るために銀毛化し成長速度を急加速させる。
河川では個体の大小における生存率はあまり変わらないのに対し、海洋では個体の大きさが生存率を大きく左右するためである。
ハイリスクを避けるためにも、降海型の個体は成長が早くなければならない。
淡水説が有力?
これらを総括すると、サケ科魚類は淡水魚類より発生し、海を利用して分布を広げ、次第に海洋依存を高めていったと考えられる。
カラフトマスやシロザケに見られるように一生のほとんどを海洋で生活しているにも関わらず、淡水域で産卵を行うことも、サケ科魚類の淡水起源説を後押しする1つの証だろう。
また、降海型サケ科最大の種はマスノスケだが、その後に発生したカラフトマス、ベニザケ、シロザケではやや小型化している。
一定以上の大きさまで成長すれば海洋でも生存率に変わりはなく、摂餌行動の多様性によって種が維持できるのだろう。
<週刊つりニュース関東版 APC・藤崎信也/TSURINEWS編>