魚を捌いていると、しばしばお腹の中が真っ黒なものに出会います。これには一体どんな意味があるのでしょうか。
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サヨリ漁が解禁
若狭湾に面する福井県小浜市で、春の風物詩であるサヨリ漁がスタートしました。今月7日には小浜市とおおい町から合わせて2組4隻が出船し、小ぶりのものを中心に90kgほどの水揚げがありました。
サヨリは大きくても40cmほどの小魚で、主に内湾の浅い海域に生息しています。春に水揚げが増えるために「花見魚」と呼ぶ地域もあり、各地で愛される食材です。
サヨリは淡白ながらも旨味のある、さっぱりとした白身が魅力。寿司ネタとして人気があるほか、塩焼きや干物原料としても有名なものです。(『春を告げるサヨリ漁 小浜漁港で出足鈍め(福井県)』FBC 2022.4.8)
腹黒い魚たち
サヨリは古くから、そのきれいな見た目と淡麗な味で人気の魚です。しかしその一方で「サヨリのように腹黒い」という慣用句が存在します。
実はサヨリには「腹膜が非常に黒い」という特徴があります。その爽やかな見た目とはある種対照的ともいえるもので、そのために「見た目は良いのに性格が悪い人」のことを上記のようにサヨリに例えたのです。
そしてこの「腹膜が黒い」という特徴を持つ魚は、分類学上のグループにかかわらず存在しています。もっとも有名なのはおそらく「アカムツ」でしょう。「のどぐろ」という地方名が広く知られている通り、彼らは腹膜から喉にかけて、まるで墨でも流したかのように真っ黒になっています。
内臓を守るための「黒色」
このような魚の腹膜が黒いのは、基本的には「光」を通さないようにするためだと考えられています。
例えばサヨリは水面直下の浅いところを泳ぐため、強い日光を浴びます。加えて体色も淡いため、何もしていなければ大切な内臓が紫外線などの危険な光線にさらされやすくなってしまいます。
それを防ぐために、腹膜を黒くして紫外線をシャットアウトしているのです。同様の魚には、温かい海の磯周りに生息しているイスズミなどがいます。
一方、アカムツのような深海魚は、強い日光にさらされるリスクはほぼありません。彼らが防ごうとする光は「別の生物が発する光」だと考えられています。
深海には、自分の身を守るために発光する生き物がたくさんいます。それらの生き物をアカムツが餌として食べた際、食べられた生物が発する光がもし腹腔から漏れると、今度は自分が敵に見つかってしまうリスクがあります。
そのため、腹腔内から光が漏れ出ないようにするために腹膜が黒くなったのではないかと言われているのです。肉食性の強いカサゴ目、スズキ目、タラ目の深海魚の多くで、腹膜は黒くなっています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>