生食でも美味な「マルソウダ」は毒魚ではない 誤解が生まれた理由とは?

生食でも美味な「マルソウダ」は毒魚ではない 誤解が生まれた理由とは?

暖流の当たる地域ではごくポピュラーな魚であるマルソウダ。釣り人を中心に「毒があり、生で食べると当たる」といった言説が広まっていますが、実際に毒があるわけではありません。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

アバター画像 TSURINEWS編集部

その他 サカナ研究所

生で食べられるマルソウダ

静岡県の伊豆半島西岸にある西伊豆町。ここの産地直売所が、静岡県と協力し、ソウダガツオの一種「マルソウダ」の生食用商品を開発したことが話題になっています。

マルソウダはそばつゆの原料として欠かせない「宗田節」の原料になることで知られ、安価な加工用としての流通が主流の魚。しかし今回、水揚げ後の管理方法を見直し、生食用商品化にこぎ着けました。9月18日から、協力先のすし屋で提供しているそうです。

生食でも美味な「マルソウダ」は毒魚ではない 誤解が生まれた理由とは?生のマルソウダで作る「うずわ飯」(提供:PhotoAC)

今回の商品は「水産資源の埋もれた価値を見いだし、ブランド化につなげる」という目的のもと行われている事業です。地元の漁師は「マルソウダは本来、値が付かない魚だが、生食が普及することで西伊豆の漁の活性化や知名度向上につながる」と期待を寄せているそうです。(『西伊豆のマルソウダ 刺し身でどうぞ 直売所、静岡のすし店で提供』静岡新聞 2021.9.8)
  

「特別」な生食用マルソウダ

マルソウダは黒潮や対馬海流など暖流の影響がある温暖な海域に生息する魚です。カツオを小さくしたような見た目をしており、沿岸近くに生息し、各種の漁や釣りで獲られており、漁獲量は決して少なくありません。

しかし食用魚としては人気がなく、それどころか釣り人などの間では「生で食うとあたる」「刺身は毒」という認識も強いため、釣れても捨てられてしまうこともしばしば。漁獲されたものは、基本的には宗田節の原料など加工品に使われることが多くなっています。

生食でも美味な「マルソウダ」は毒魚ではない 誤解が生まれた理由とは?宗田節(提供:PhotoAC)

今回西伊豆町では、漁獲直後に船上で血抜きし、直売所で真空にした切り身を急速冷凍機で保管するなど、品質や衛生管理を工夫した結果、生食用商品の開発に成功したといいます。

マルソウダは毒ではない

しかし、実際のところマルソウダには毒はないのでしょうか。

マルソウダを食べて嘔吐や腹痛などの症状に見舞われる人は少なくなく、ときには加熱したものでも中毒してしまうことがあります。しかしこれはマルソウダが毒成分を持っているためというわけではありません。

カツオやサバなど、サバ科の青魚の筋肉・血液中には「ヒスチジン」というアミノ酸が含まれています。そして、マルソウダの体内にはこのヒスチジンがとくに多く含まれていると言われます。

生食でも美味な「マルソウダ」は毒魚ではない 誤解が生まれた理由とは?ヒスチジンはサバにも多い(提供:PhotoAC)

これらの魚の保管中に温度が上がり、鮮度が落ちてしまうと、血液中の細菌の作用によってヒスチジンが「ヒスタミン」という物質に変化します。ヒスタミンはアレルゲン物質の代表的なものであり、ヒスタミン中毒を引き起こします。これが嘔吐や腹痛の原因なのです。

そのため低温状態を保ち、ヒスチジンをヒスタミンに変化させないようにすれば、中毒することはありません。もともと毒魚であるわけではなく、扱いが悪いと毒魚になってしまうだけなのです。

アミノ酸が多いということは裏を返せば「旨味も多い」ということになり、実際に鮮度の良い生のマルソウダは非常に美味しい魚です。とくに水揚げしたてのものは刺身にするとモチモチと弾力があって歯ごたえがよく、「モチガツオ」と呼ばれて珍重されています。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>