小さいけれども味がよく、意外と高値がつく魚……というものはいくつもありますが、「ハゼ類」はその代表的なもののひとつでしょう。
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伝統漁「ノボリコ漁」
宮崎県南部に位置し、太平洋に面した温暖な気候で知られる日南市。ここを流れる広渡川で、伝統の「ノボリコ漁」が今年も始まりました。
「ノボリコ」とは小さなハゼの総称で、ボウズハゼやゴクラクハゼの稚魚が中心となっています。ボウズハゼの稚魚は体長3cmほどと小さいですが、海と川を行き来する「両側回遊性」をもち、毎年初夏になると集団で川をのぼる習性があります。
ノボリコ漁は彼らのこの習性を利用したもので、まず川の浅瀬の両側に石を積んで魚が通る道を作っておき、縦2m、幅1mほどの網を仕掛けて、そこにノボリコの群れを誘い込むという方法で行われます。漁期は7月上旬までとなっています。(『日南市で伝統の「ノボリコ漁」が始まる・宮崎県』宮崎放送 2021.6.10)
各地にある「小さいハゼ」の伝統漁
この「ノボリコ漁」以外でも、小型のハゼ類魚を漁獲する文化は各地に存在します。そのようなものの中で最も知名度があるのは「ゴリ」でしょう。
ゴリはヨシノボリ、チチブなどといった、淡水性の小型ハゼの総称のひとつ。漁獲されるのは大きくても5cmほどの個体ですが、全体からすばらしい出汁が出るため和食の世界で珍重され、吸い物や卵とじなどで食べられています。鮮度落ちが早く基本的には産地周辺でのみ流通しますが、ときに都心部に入荷することもあります。
またこれ以外にも、琵琶湖周辺では滋賀県の固有種である「イサザ」という小型ハゼが漁獲されています。こちらは佃煮等で食べられており、琵琶湖を代表する食材の一つとなっています。
あの慣用句の語源にも?
上記の「ゴリ」はハゼ類の中でもとくに小さいもので、また砂利底を好んで生息するという修正があるため、漁獲するのはなかなか難しい魚です。そんな彼らを効率よく漁獲するため、各地にユニークな漁法が残っています。
そのような「ゴリ漁」の中には、川底の小石もろとも網に掻き込んだり、箒のようなもので川底を叩いて脅して網に追い込んだりするといった「力技」も多く見られます。
とくにユニークなのが高知県の一部に残る「ガラ引き」。この漁ではまずサザエの殻を何十個も紐でつなぎ、その両端をそれぞれ持って川に入ります。そして殻を川底に沈め、そのままゆっくり引っ張っていきます。すると、サザエの殻に追い立てられたゴリが徐々に狭い範囲に追い込まれていき、やがて予め設置されていた仕掛けに追い込まれていくのです。
このように、ゴリ漁には「無理やりゴリを追い立てて漁獲する」というものが多く見られます。そのことから、無理を押し通すことを「ゴリ押し」というようになった、という説があるのですが、はたして本当でしょうか。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>