有明海のムツゴロウが繁殖期に オスは「求愛ジャンプ」でアピール?

有明海のムツゴロウが繁殖期に オスは「求愛ジャンプ」でアピール?

日本で最もユニークな海「有明海」を代表する魚と言えるムツゴロウ。ほかではなかなか見られない希少な魚である一方、地元では重要な経済種でもあります。

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ムツゴロウの求愛行動

日本で最も干満の差が大きい海として知られる有明海。この海に面する佐賀県小城市の六角川河口には、干潮時には生き物豊富な広い干潟が広がります。

ここでは今の時期、繁殖期に入ったムツゴロウのオスがメスにアピールするために行う「求愛ジャンプ」があちこちで見られます。ムツゴロウのオスは干潮時の干潟でジャンプを繰り返し、求愛が成功するとメスがオスの作った巣穴に入って産卵を行うのです。

有明海のムツゴロウが繁殖期に オスは「求愛ジャンプ」でアピール?カニを威嚇するムツゴロウ(提供:PhotoAC)

ムツゴロウのオスは縄張り意識が強く、侵入してきた他のオスやシオマネキなどのカニに向かって背びれを立て、口を大きく開けて威嚇します。求愛ジャンプと合わせ、そのようなシーンもこの時期の名物となっています。

求愛行動と産卵のピークは7月ごろまで続くとのことです。(『ムツゴロウ、恋の季節 干潟で求愛のジャンプ 佐賀』毎日新聞 2021.5.25)

ムツゴロウとはどんな魚か

ムツゴロウはその名前や生態からはなかなか想像しにくいですが、ハゼの一種です。潮が引いた干潟の上で生活する最大で20cmほどの大型のハゼで、褐色から暗緑色の地に、白もしくは青の斑点があります。さらに目が上に突き出ており、カエルのような見た目と、いろいろな点で特徴的な魚です。

有明海のムツゴロウが繁殖期に オスは「求愛ジャンプ」でアピール?巣穴に戻るムツゴロウ(提供:PhotoAC)

ムツゴロウは軟泥干潟に1mほどの巣穴を掘って生活しています。満潮時や夜間、あるいは敵に追われたときなどは巣穴に隠れますが、昼間の干潮時には巣穴から這い出てきて、泥の上を這い回るという魚らしからぬ行動を取ります。

彼らが干潟の上で生活できるのは、皮膚と口の中に溜めた水で呼吸するためといわれています。植物食性で、干潟の泥を独特な形状の口でかき集め、その表面に付着している珪藻などの底生藻類を食べています。

実は食べられるし美味しいムツゴロウ

ムツゴロウは「大陸系遺存種」といわれる生物群のひとつで、東アジアの広い範囲に分布しているものの、日本では九州の有明海・八代海の湾奥干潟にしか生息していません。そのため希少な生物として知られ、絶滅危惧種のひとつとされています。

しかし生息域における生息密度は高く、さらに近年は彼らの生息に適した軟泥干潟の面積が増えたこともあり、その生息数も漸増していると言われています。

有明海のムツゴロウが繁殖期に オスは「求愛ジャンプ」でアピール?漁獲されたムツゴロウ(提供:茸本朗)

そんなムツゴロウは、食味の良い魚が多いハゼ科の、しかも(科の中では)大型になる魚です。そのため実は食味がよく、地元では古くから食用にされてきました。やや泥臭さがあると言われますが生臭さは少なく、泥の中の有機物や藻を食べることからアユにも似たキュウリのような風味を持ちます。

地元では主に蒲焼き、唐揚げなどで賞味されますが、新鮮なら刺身でも美味しい魚です。気になる人はコロナ禍の収束後に、有明海地域を訪れてみることをオススメします。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>