高級魚アマダイの不思議 産地よりも「漁獲後の扱い」で価値が変動?

高級魚アマダイの不思議 産地よりも「漁獲後の扱い」で価値が変動?

京料理の代表的な食材として知られ、大きいものはかなりの高値となるアマダイ(アカアマダイ)。京都や福井で水揚げされるものはブランドとしても有名ですが、そこには「産地」以上に大事な要素があります。

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京都のブランド魚「丹後ぐじ」

京都府が誇るブランド魚に「丹後ぐじ」というものがあります。これは京都府内の漁港で水揚げされた500g以上のアカアマダイのみが名乗ることができるものです。「京のブランド産品」として登録されており、水揚げから出荷まで厳しい規約に沿った品質管理が行われています。

高級魚アマダイの不思議 産地よりも「漁獲後の扱い」で価値が変動?アカアマダイ(提供:PhotoAC)

丹後ぐじは、ブランドとして主に東京や大阪などの中央市場に出荷されてきたのですが、折からの新型コロナウイルス感染症の影響でここのところ出荷が激減しています。しかし丹後ぐじはその規約により、中央市場以外に出荷できないことになっており、ノーブランド品として流通され値がつかないという状況が続いていました。

このような状況を改善するため、アマダイ漁師は組合を結成。地元にも丹後ぐじとして出荷できるようにしようと、府漁協と規約変更の協議を行ったそうです。その結果、府漁協の市場でもセリにかけることが可能になり、先月終わりに初めて同府宮津市にある京都府漁協卸売市場で丹後ぐじのセリが開催されたそうです。(『東京・大阪向け高級魚、初の地元競り売り 「丹後ぐじ」コロナで出荷減、地元消費狙い』京都新聞 2021.5.6)

超高級魚・アカアマダイ

丹後ぐじの「ぐじ」は、アマダイ、とくにアカアマダイの京都周辺地域における地方名です。とくに京都北部の日本海沿岸や若狭湾で獲れたものが評価が高く、前者である丹後ぐじに対し、後者は「若狭ぐじ」としてこれもまたブランド品となっています。

アカアマダイは身が水っぽく、鮮度保持や調理が難しい魚。しかし正しく調理するとその名の由来ともなった「身の甘さ」と強い旨味が感じられ、非常に美味な魚です。そのため繊細な味付けが身上の京料理の世界で重要な食材とされてきました。

高級魚アマダイの不思議 産地よりも「漁獲後の扱い」で価値が変動?若狭ぐじ(提供:PhotoAC)

東日本ではこれまで、西日本ほどには珍重されてこなかったのですが、最近は活け締めものを見かけるようになっています。その価格はときにキロ10,000円を超えることもあり、市場の中でも屈指の超高級魚となっています。

アカアマダイは釣りの世界ではシロアマダイと比べ一段下がる評価とされることが多いですが、アカアマダイの価値が近年急上昇した結果、現在の市場価値にはそこまで大きな差はないようです。

大事なのは産地よりも「鮮度」

上記の丹後ぐじですが、これまではもし地元に出荷してしまうと、規約上そのブランドとして出荷する事ができないため、半値以下で取引されてしまっていたそうです。ブランドのアカアマダイとそうでないアカアマダイにここまで価格の差が出てしまう理由として、アカアマダイの味が「漁獲後の取り扱い方」によって大きく変わってしまうことが挙げられます。

「丹後ぐじ」というブランドとして認定されるためには、ただ京都府内で水揚げされたというだけではなく、一本釣りもしくは延縄漁法によって漁獲されたものでないといけません。アカアマダイは身がとても柔らかいので、網で漁獲すると身が潰れてしまうことがあるのです。

高級魚アマダイの不思議 産地よりも「漁獲後の扱い」で価値が変動?新鮮なら生食で絶品(提供:PhotoAC)

また「若狭ぐじ」には延縄で漁獲されたアカアマダイを専用の保冷ボックスの中に入れ、氷で5℃前後に保ちながら漁場から港へと運搬するというルールがあります。港で水揚げした後は、アカアマダイを傷つけないようにタモ網などの使用を避け、一尾ずつ丁寧にシートなどの上に広げ検品されるといいます。

丹後ぐじや若狭ぐじがブランドとして高値がつくのは、水揚げのあとにこのように大事に取り扱われていることが保証されているから、ということでもあります。

アカアマダイ自体は関東周辺でも相模湾や駿河湾でそれなりの漁獲がある魚ですが、上記のブランドアカアマダイのように一本釣りや延縄漁で獲られたものはまだあまり多くないようです。そのため、近い産地で水揚げされたものより、はるばる輸送されてきた上記のブランドもののほうが高値であることもしばしばです。

それでも鮮度的には産地が市場に近いほうが間違いなく有利なので、相模湾や駿河湾で獲れたものでも、漁獲の仕方や水揚げ後の扱いを変えることで価格向上につながるポテンシャルはあるでしょう。今後、これらの産地から新しいブランドアカアマダイが生まれてくるかもしれません。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>