コロナ禍でブーム再来の「釣り」。移住やワーケーションの要素としても注目は集まるが、先んじて2018年から「地域×釣り」に取り組む自治体がある。それが福岡県北九州市だ。
(アイキャッチ画像提供:タカミヤ)
コロナ禍でも利用者増
コロナ禍でも利用者は増え続け、昨年8月以降は前年比125%で推移した。緊急事態宣言中は遠方(首都圏)からの利用は皆無だったが、地元北九州を含む福岡県、山口県からの利用者が増えた。特に夏以降は、ファミリー層、初心者層が増加した。コロナ禍をきっかけに防波堤などでの手軽な釣りを楽しんだ人たちが、次のステップとして船釣りにチャレンジする傾向が見られたという。
黒石氏は「今後はファミリー向けのプランを強化し、さらに船釣りの敷居を下げたい」と語る。魚の捌き方教室とセットにし、食育・魚食の堪能のレベルを上げていくプランも作る予定だ。また、しばらくは在日外国人が対象となるが、インバウンド向けの商品造成にも着手する。
地元企業や団体とコラボも
昨年、ファミリー向けの企画として北九州アーバンサップ協会とコラボイベントを実施。午前中は小倉の街の中心を流れる紫川でSUP(スタンドアップパドルボード)を楽しむ家族と、遊漁船で釣りを楽しむ家族に分かれてそれぞれレジャーを体験し、その後合流して市内のレストランで釣った魚をみんなで食べるという企画だ。
釣魚の食べ方は刺身や焼き魚など和食のイメージが強いが、同イベントではフレンチに仕上げてもらい非日常感を演出した。母と娘はSUP、父と息子は釣りといった形での参加が多く、当初船1隻の予定が申し込み多数で3隻まで増やしたという。
地元企業や銀行が福利厚生や企業研修の一環で利用するケースも多く、地域経済界とのつながりも広がっている。
釣りは滞在型観光
北九州市は観光名所が少なく、これまでは通過型観光に甘んじていた。一方、釣りは朝が早いレジャーであり、前泊もしくは釣行後の宿泊が必要になる。また、釣った魚を店に持ち込んで食べることになれば、飲食店にも人は流れる。黒石氏は、これらの点で「滞在型の観光として『釣りいこか倶楽部』のパッケージが(地域経済に)寄与している」と話す。
「北九州釣りいこか倶楽部」について、他の自治体からの視察や問い合わせもあるという。黒石氏は、同様の事業を他の自治体でも成功させるためには「まず漁業者や港湾局との調整が大事」だと語る。漁業者と遊漁者(遊漁船)の関係性は地域により異なるが、双方が納得できる調整が必要になる。
そして、遊漁船の船長らのモチベーションのコントロールも重要だという。「北九州釣りいこか倶楽部」では、定期的に釣り船の船長らを含むプロジェクトメンバーを集め、ミーティングを実施している。
ベテラン船長にトレンドを共有し、若い釣り人のニーズに合わせた、新しい「釣り」の開拓にもまい進する。併せて、船長のサービスシップや釣り船の清潔さに関するチェックリストを作成するなど「お客様へのサービス」の観点での改善点の指摘も忘れない。こうした細かなコミュニケーションが、サービス全体の質向上につながっているという。
釣りで地方創生を
日本では全国各地で釣れる魚種や釣り方が異なり、主として楽しまれている「釣り」は地域によって様々だ。そして、「釣り」は単なるレジャーではなく、大切な文化の一つでもある。
インバウンドの回復がいつになるか分からない中、地方創生や活性化に取り組む自治体にとって、観光資源や地域の魅力の再点検は喫緊の課題となっている。人を呼び込み、地域経済にも寄与する「釣り」が、今後の地方創生事業の重要なキーワードになるかもしれない。
<TSURINEWS編集部・船津紘秋>