静岡で『近海カツオ』が水揚げ 「初物」だけど「初鰹」ではない?

静岡で『近海カツオ』が水揚げ 「初物」だけど「初鰹」ではない?

まだ寒さも続いていた2月の終わりに、静岡・御前崎港でなんとカツオがまとまって水揚げされました。もちろん今季初のことだといいますが、このカツオはいわゆる「初鰹」なのでしょうか。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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静岡県で近海ガツオが豊漁

伊豆半島の南端である石廊崎とほぼ同じ緯度にあり、駿河湾と太平洋(フィリピン海)との境目にあたる御前崎。ここにある御前崎港は、同じく静岡県内にある焼津港と並び、全国屈指のカツオ水揚げ港となっています。

この御前崎港で2月26日、地元の近海カツオ船による生カツオの水揚げが行われました。八丈島沖の漁場で前日に一本釣りで漁獲されたもので、約3tが競りにかけられました。

静岡で『近海カツオ』が水揚げ 「初物」だけど「初鰹」ではない?水揚げされたばかりの生ガツオ(提供:PhotoAC)

ただ、今回の漁はカツオを狙ったものではなかったといいます。本来であればこの時期はキハダマグロ漁の最盛期で、カツオ漁は通常であれば3月末から5月にかけて盛期を迎えるのだそう。(『春到来、カツオ御前崎港に水揚げ 競りで3トン取引』静岡新聞 2021.2.26)

実は日本で一番カツオが揚がる静岡

我が国で広く愛される魚であるカツオ。中でも最も有名な調理法である「カツオのたたき」のイメージもあり、「カツオといえば高知」と思っている人は多いと思います。

しかし実際のところ、都道府県でカツオの水揚げが最も多いのは静岡県です。水揚げ量は全国の漁獲量の1/3、金額ベースでも3割弱を占めています。

静岡で『近海カツオ』が水揚げ 「初物」だけど「初鰹」ではない?焼津港のカツオ漁船と競り場(提供:PhotoAC)

静岡県でカツオの水揚げが多い漁港には上記の御前崎港の他に焼津港がありますが、前者は近海物の生カツオの水揚げが多いのに対し、後者はほぼ100%が遠洋漁業で獲られた冷凍カツオとなっています。

この時期のカツオは「初鰹」?

御前崎港では毎年1月末頃からカツオの水揚げが見られるといいますが、今回のように2月末にまとまった量のカツオが水揚げされるのはそれほど多くはないようです。カツオ漁シーズンインを知らせる今季初めての豊漁でいわば「初物ガツオ」と呼べるべきものですが、しかしこれをいわゆる「初鰹」というと、ちょっと語弊があるかもしれません。

「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」の句にもある通り、初鰹は「初夏」のもの。現在でも、3月~5月に南九州~高知あたりで漁獲されるものをそう呼ぶことが多いです。

静岡で『近海カツオ』が水揚げ 「初物」だけど「初鰹」ではない?初鰹とは言い難い(提供:PhotoAC)

現代では技術の発達や温暖化によって、早い時期にもカツオが漁獲できるようになっています。しかしそれはあくまで「初物」であって、我が国の伝統に基づく定義である「初鰹」とは違うものと考えるのが無難でしょう。

なお、今回漁獲されたカツオは漁師によると「脂が乗ってうまい」とのことでした。これも「さっぱりした味わいが身上」の初鰹とは異なるものだと言えるひとつの論拠です。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>