世界の真珠市場で高いシェアを誇る日本産の養殖真珠。しかし現在、その真珠を生み出す真珠貝に、かつてない危機が起こっています。
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愛媛で真珠貝が大量死
世界中で高い人気を誇る宝石のひとつ、真珠。「養殖することができる宝石」としてもよく知られ、「真珠貝」として知られるアコヤガイの体内に、核となる物質(小さく削った貝殻など)とアコヤガイの外套膜とを同時に挿入することで、人工的に製造することが可能です。
1893年に御木本幸吉が養殖真珠の生産に成功して以降、日本の養殖真珠は世界の真珠市場を席巻し、一時はその9割を占めることもありました。現在でも日本産真珠は非常に人気が高くなっており、2019年の水産物輸出額ランキングでは真珠がホタテを上回り1位となっています。
しかし現在、日本最大の真珠産地である愛媛において、アコヤガイの大量死が発生し大きな問題となっています。愛媛県内における真珠の主要産地である宇和海沿岸は特に被害が大きく、愛媛県漁業協同組合などが宇和島市に陳情を行う事態にまで発展しました。
この陳情では、養殖業者の経営支援や、真珠の母貝となるアコヤガイ確保に向けた経費助成、県漁協内に設置する「アコヤガイへい死対策委員会(仮称)」への参加などを求めたそうです。(『県漁協などが宇和島市長に陳情 アコヤガイ大量死受け』愛媛新聞 2021.1.26)
アコヤガイ大量死の影響
宇和海ではじめに異変が確認されたのは2019年7月のこと。母貝と稚貝のいずれもが大量斃死し、最終的には全稚貝の3分の2が死んだとも考えられています。
愛媛県はアコヤガイの母貝生産でも9割近いシェアを誇り、真珠生産シェア2位の長崎県や3位の三重県にも大量に母貝を出荷しています。
真珠の生産では、まず人工交配によってアコヤガイの稚貝を生産し、それを生育して母貝とします。その状態で各地の真珠養殖業者に出荷、真珠の核を埋め込み、2年ほどかけて真珠を生産します。そのため、2021年以降にかけての全国の真珠生産に、大きな影響が出る可能性が高くなっています。
この非常事態に対応するため、愛媛県では通常は春に行われるアコヤガイの稚貝生産を秋にも行ったのですが、斃死により減った母貝生産量を完全に埋め合わせるのは厳しいとの見方もされています。(『アコヤガイ大量死で真珠養殖ピンチ 季節外れの緊急対策へ』産経WEST 2019.10.4)
アコヤガイ大量死の原因は?
愛媛県では、1996年にもアコヤガイの大量死が発生したことがあるのですが、このときは「アコヤガイ赤変病」という伝染病が原因だったと判明しています。しかし、2019年以降発生しているアコヤガイの大量死は、赤変病によるものではないと見られています。
そして実は時期を同じくして、長崎県や三重県でもアコヤガイの大量死が確認されており、この事象が全国的なものであることが示唆されています。この斃死の原因として、海水温がアコヤガイの生育に適さないほどの高温になってしまっているからという説や、アコヤガイの餌となる植物プランクトンが減少しているという説が唱えられていますが、根本的な原因はまだはっきりしていません。
一方、三重県水産研究所の調査により、波による揺れや海中の泥が、養殖アコヤガイにストレス与えている可能性があることが判明したといいます。これを踏まえ、養殖場の近くでは船の航行速度を落としてかごの揺れを防ぐなど、アコヤガイにストレスを与えないための対策をしながら、様子を見ているそうです。(『揺れが影響、ストレスに? 三重のアコヤガイ大量死 SankeiBiz 2020.9.10)
<脇本 哲朗/サカナ研究所>