手軽に狙える釣りのターゲットでありながら、高級食材でもあるテナガエビ。その名産地である高知に、養殖での量産に成功した企業があります。
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テナガエビとは
テナガエビという生き物をご存知でしょうか。テナガエビ科テナガエビ属に分類されるエビの総称で、熱帯から温帯にかけての淡水域や汽水域に生息する、中~大型の種です。
最大の特徴はその和名の通り、第2歩脚(ハサミ)が長く発達しているということ。オスのハサミは胴体よりも長くなり、見た目のインパクトが抜群です。
日本では6種が棲息し、全国的に見られます。採取や釣りの対象としても人気が高く、テナガエビ釣りは江戸時代から親しまれていたとも言われています。首都圏の河川でも数多く棲息し、ベストシーズンの夏になると子供から大人まで釣りに興じる様子が見られます。
身近な高級食材
気軽な釣りのターゲットであるテナガエビですが、食べても美味しいことから根強い人気があります。特に汽水域に棲息する個体は川エビにあるような臭みがなく、大きさの割に殻も柔らかいためまるごと食べることができます。
調理法は唐揚げがポピュラーですが、小型のものは佃煮、大物は串を指して塩焼きにするのも非常に美味しいです。加熱すると殻が非常に香ばしくなるのが食材としての大きな魅力。
実は高級料亭でも用いられる食材で、名産地の走りのものはキロ1万円の価格がつくこともあるそう。ちなみにフレンチの高級食材である「手長エビ」は深海性の「アカザエビ」のことであり、テナガエビとは非常に遠い存在です。
高知で養殖に成功
そんなテナガエビですが、今年の9月に高知県中土佐町の企業が養殖での量産に成功し、話題になりました。おそらく「世界初」と見られています。
町内を流れる四万十川は日本屈指のテナガエビ産地であり、名産地として名高い川です。しかし近年は水揚げが減少しており、ピーク時の40分の1にまで減ってしまったといいます。このことに危機感を思え、養殖技術構築にトライしたのだそうです。
気性が荒いテナガエビは密集環境で飼育すると「共食い」をしてしまうため、「稚エビ」から大人のエビになれるのは5分の1ほど。失敗を繰り返しながら、飼育が困難な「稚エビ」の増産に成功したものの、それにより水質が悪化して大量斃死してしまうなど、苦労が絶えないそう。
それでも順調にいけば、2021年の春以降、販売を開始できる予定だといいます。(『‟世界初”の快挙!「テナガエビ」の養殖での量産に成功 困難乗り越え挑んだ21歳の事業部長』高知さんさんテレビ 2020.10.5)
いつの日か、養殖テナガエビが鮮魚店に並ぶ日も来るかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>