ルアーフィッシングの対象魚として人気の高いシイラ。大きくなる魚で食味も決して悪くないのですが、日本では食用の人気はさほどありません。そこには味だけではない別の理由があるようです。
(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース 編集部)
夏は回遊魚の季節
猛暑の到来とともに、各地の沿岸に押し寄せる「回遊魚」たち。暖流に乗って南からやってくる彼らは、季節を知らせる夏の申し子として漁師や釣り人に愛される存在です。
一口に回遊魚と言っても様々な魚種が含まれており、代表的なものにサバやアジ、ブリの子であるワカシやイナダ(ハマチ、ヤズetc)、カンパチの子であるショゴ(シオ)などが挙げられます。回遊魚は魚食魚(フィッシュイーター)が多く、獰猛で遊泳力が高いため、釣りの対象としてとても人気が高いです。
もちろん釣りだけでなく漁業上も大変重要な魚たち。7月のうちに回遊してくる個体にはまだまだ幼魚が多く、サイズも小さいですが、それでもそのさっぱりとした味わいは暑い日の食卓にぴったりです。
豪快なファイトが楽しい「シイラ」
さて、そんな回遊魚のひとつにシイラという魚がいます。
シイラは世界中の温かい海の表層を回遊する大型の魚で、世界中で2種しかいない「シイラ科」の魚のひとつです。分類上はマイナーな魚と言えるわけですが、生息域は広く、世界的に人気が高い釣魚となっています。大きなルアーでもひるまずに追い回し、一度ハリにかかると豪快なジャンプを繰り返すため、ルアー釣り師なら誰もが一度は憧れる存在です。
シイラは外国では食用魚としても人気があり、とくにハワイでは「マヒマヒ」と呼ばれる高級魚です。ときに2mにも達する大型魚ながら身質は淡白な白身で、とくに油との相性がよく、ぶつ切りにしたステーキなどで食されています。
日本でも産地ではよく食べられている魚で、スーパーに切り身が並ぶことは珍しくありません。神奈川県で「プライドフィッシュ(夏)」に認定されるなど、最近は食用魚としてもポピュラーになりつつあるようです。
シイラには毒がある?
しかしそんなシイラ、身の味は贔屓目に見ても良い魚だとは思うのですが、日本では現時点で、食用魚としての評価はあまり高いとは言えません。前記の通りシイラの身はやや淡白で脂が強く乗るわけではないので、魚の食味を「刺身」で決定しがちな日本人にそこまで刺さる魚ではない、ということが理由として考えられます。しかしそれだけではなく、「味」以外の観点からも、人気が出づらくなっている理由があります。
実はシイラ、沖縄などの南西諸島では古くからたびたび食中毒事故を起こしています。漁師の間では「シイラを生食すると下痢を起こす」ということが知られており、最近の現象というわけではないようです。
食中毒の原因については現時点でははっきりしておらず、過去に沖縄県衛生環境研究所による原因物質の分析が行われたこともありますが、判明しなかったそうです。(『沖縄県における化学物質と自然毒による食中毒および苦情事例- 平成15年度 -』「沖縄衛生環境研究所報第38号」沖縄衛生環境研究センター 2004)
釣り人の中には「シイラの表皮に毒がある」という説が多く広まっているのですが、はっきりしたソースを見つけることはできませんでした。暖海の海水には腸炎ビブリオ原因菌が多く、魚の表皮から検出されることがあるためそれが原因であるとも言われますが、こちらも事実かどうかは不明です。
神奈川や福井など、シイラを生食する地域はあり「すべてのシイラが危険」というわけではないと思われます。また、下処理方法にも寄る可能性があります。
もし自分で釣ったシイラを食べることがあったら、過去に食中毒の発生が見られた海域のものは生食を避けるなどの配慮が必要かもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>