魚介類の「食べるな危険」部位:ウナギの血液に毒あり 生食の障壁に

魚介類の「食べるな危険」部位:ウナギの血液に毒あり 生食の障壁に

夏になると食べたくなるウナギやアナゴ、ハモなどの「長物」。いずれも古くから愛される食用魚ですが、実はとある部位にかなり強い毒を持っています。

(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)

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長物が美味しい季節

盛夏が近づき、日々蒸し暑さが増すこの時期になると食べたくなるのがウナギ、アナゴなどの「長物」と呼ばれる魚たち。土用丑のウナギは言うまでもないですが、アナゴの天ぷらやハモの落とし(ぼたんはも)など、夏をイメージさせる料理がとても多い魚です。

魚介類の「食べるな危険」部位:ウナギの血液に毒あり 生食の障壁に「夏といえばやっぱりウナギ」(提供:PhoteAC)

彼らはすべて「ウナギ目」というグループに属する魚なのですが、いずれもビタミンBが豊富に含まれ、滋養強壮の薬として愛されてきました。実はウナギ目魚の多くは夏になると産卵を控えて卵を持ち、身が痩せてしまうため本来は夏が旬であるとは決して言えない魚です。それでも「夏の魚」として愛されてきたのは、暑い夏を乗り切るためのエネルギーがこの魚たちにはあると考えられてきたからなのではないかと思われます。

ウナギはなぜ生で食べない?

さて、そんなウナギ目の魚ですが、古くから愛されてきた食用魚であるにも関わらず、生食されることはあまりありません。淡水魚であるウナギはともかく、アナゴなどはきれいな身質をしており、刺し身や寿司ネタにも向いていそうなのですが、一部の地域を除き、全国的に加熱調理で食べられるのが普通です。

なぜ生食されないのか、それには理由があります。実はウナギ目の魚は他の魚と比べ「体表のヌメリ」と「血液」が非常にしつこく扱いにくいのです。

彼らは鱗がほとんど退化しており、強いヌメリを分泌することで体表面を保護しています。このヌメリは非常に生臭みが強く、また他のものにつくとなかなか落とすことができません。これが可食部に付着すると台無しになってしまうため、刺身などの生食にするのが難しくなっています。

魚介類の「食べるな危険」部位:ウナギの血液に毒あり 生食の障壁に酢をかけると滑りが凝固する(提供:野食ハンマープライス)

また、血液も料理を台無しにする要素のひとつ。こちらも生臭みが強く、美味しく料理するためには生きているうちに締めて血抜きをしなくてはなりません。しかもこの血液は口や目などの粘液につくと強い刺激をもたらし、ときに炎症が残ってしまいます。こちらも生食が難しい理由です。

ウナギの血には毒がある!

これらの事情にくわえ、生食が敬遠される決定的な原因があります。実は、ウナギ目魚の血液には「血清毒」という毒が含まれているのです。ウナギ目魚の生の血液を大量に摂取すると、下痢や嘔吐などの消化器のトラブル、不整脈や感覚異常などの特殊な症状から、ひどくなると呼吸困難を引き起こし、死に至る可能性もあるという研究発表があります。(『自然毒のリスクプロファイル:魚類:血清毒』厚生労働省)

ただ、致死量は少なくなく、また通常の食生活でウナギ目魚の血液を大量に摂取するという可能性も基本的にはほぼないと言っていいでしょう。

しかし前記のとおり「血液が粘膜に炎症を起こす」ことはとくにウナギ調理人の間では古くから知られており、これがウナギ目魚の生食文化が発展してこなかった理由と考えられています。

魚介類の「食べるな危険」部位:ウナギの血液に毒あり 生食の障壁にまな板や包丁に付いた血にも注意(提供:野食ハンマープライス)

なお、この血清毒はタンパク質でできており、60℃で5分以上加熱することで変質し毒性を失います。ヌメリの主成分であるムチンも加熱によって変質し、臭みごと消すことができます。これらウナギ目魚を生の状態から調理する場合は、中までしっかり火を通すよう十分に加熱することを心がけるのがオススメです。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>