日本で最もユニークな海である有明海に面する佐賀県佐賀市。ここでは数年前から、とある「モンスター」を使った地域活性化が行われています。立役者の『ワラスボ』とは?
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
2つの特色ある海に挟まれた佐賀県
九州北西部に位置する佐賀県。九州を代表する県である福岡県と、歴史の教科書に頻出する長崎県に挟まれてやや影の薄さもありますが、我々サカナ愛好家にとっては非常に存在感のある県です。その理由は、日本海(玄界灘)と有明海という真逆の特徴を持つ海に挟まれているから。
北には荒々しい外洋で大きな海流(対馬暖流)が流れる玄界灘があり、アジやイカなどが有名。それに対し、南には日本最大の干満差を誇り、広大な泥干潟の広がる内湾の有明海があり、日本でもここにしか棲息していない魚介類が水揚げされています。
特に有明海の魚介類は沿岸で「前海もん」と呼ばれ、独特な漁法や食文化とともに古くから愛されてきました。
奇っ怪なモンスター「W.R.S.B.」
そんな有明海に面する佐賀県の県庁所在地・佐賀市。2015年に、この街の「シティプロモーション室」が作ったとある動画が、全国的に話題になりました。それは、”とあるカップルが、ある日港町の海岸で非常に奇妙な形状の骨を拾い、それが「未確認生物W.R.S.B.」のものだとわかったことから世界がパニックに陥る”というストーリーの動画。まるでパニック映画のプロモーションのようですが、れっきとした佐賀の名産の宣伝動画なのです。
その名産とはワラスボ。
有明海の佐賀県・長崎県・福岡県沿岸にしかいないハゼの一種です。最大で40cm程度になる細長い体、青黒い血管が浮き出るぬるりとした肌に牙がむき出しになった顔など、映画「エイリアン」に出てくるエイリアンの幼体そっくりの風貌をしています。見た目だけなら日本で最もグロテスクな魚だと言えるでしょう。
動画冒頭で拾われる「骨」は実はこのワラスボの干物なのですが、これがまたモンスターそのものという見た目。このようなストーリーが発想され、また大いに話題になった理由もわかります。ともかくいろいろな意味で「魚離れした」存在なのです。
見た目と味が一致しないワラスボ
このワラスボ、こんな珍妙な見た目ですが、佐賀県や福岡県では古くから味の良い魚として知られてきました。唐揚げや煮付けなどで賞味されるほか、最近は刺身も観光商材として注目されています。見た目の割に意外と脂が乗っており、濃厚な味わいでダシもよく出るところはさすがハゼ科の魚です。
佐賀の物産ショップではだいたいワラスボの干物が売られており、土産物として人気があることが伺い知れます。最近ではワラスボエキスの入ったワラスボラーメンやワラスボドリンクなども出てくるなど、ワラスボはさらにその活躍の場を広げています。
釣るのは簡単
そしてこのワラスボ、実は意外と簡単に釣れる魚でもあります。釣りの入門魚として知られるハゼの仲間だけあって、餌をつけた針を水中に垂らしておくだけで簡単にかかってきます。
ただ、もちろん有明海ならではの注意点もあり、干潮時に行くとそもそも水がまったくないので釣りが成立しません。釣る際には、潮位にだけは要注意です。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>