新型コロナウイルス感染症に関連して注目される「PCR検査」。実はこの検査はコロナウイルスを検査するためだけのものではなく、更に言えばヒトだけに有効な検査というわけでもないのです。
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PCR検査とはどんな検査か
新型コロナウイルスが猛威をふるう中、最近良く耳にするのが「PCR検査」という単語。「この検査でコロナウイルスに感染しているかどうか判別できる、というのはわかるけど、実際にどのような検査なのかは知らない」という人は多いのではないでしょうか。
PCRとはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略で、クラミジアやウイルスのような「顕微鏡では見ることのできない微生物・生物学的存在」の有無を調べることができる検査です。(『微生物検査のPCR法とは』日本微生物研究所)
そのため、当然新型コロナウイルスだけでなく、あらゆる病原体の検出が可能。医学のほか、法医学や考古学など幅広い分野で用いられている、とても便利な検査法なのです。
PCR検査の対象は人間だけではない
PCR検査は簡単に解説すると「検出したい対象のDNAを増幅させることによって検出を容易にする」検査方法。検出したい微生物が特有に持っている遺伝子をターゲットに設定し、それを増やします。
監査を行う際はまず、増やしたい遺伝子のDNA配列にくっつくことができる短いDNA(プライマーと呼ばれる)を用意します。それを狙いの遺伝子に接続させ、温度を上げ下げしたり、DNAを合成する酵素を用いることで、目的の遺伝子を増やします。
増えたDNAを染色してくれる特殊な装置に入れる事で、それを目で確認する事ができます。もし検体の中に当該のDNAを確認できれば陽性、遺伝子がなければ陰性と判定されます。(『微生物検査のPCR法とは』日本微生物研究所)
このような検査方式のため、遺伝子を持つ病原なら基本的には検出可能。したがって、検査対象は人間だけではありません。例えば犬や猫などの動物が下痢をしてしまったとき、以前なら細菌、ウイルス、寄生虫など可能性のある病原を一つ一つ検査していかないといけませんでした。
しかしこのPCR検査をもちいることで、一度に数多くの病原体の有無を検査することができ、検査効率を飛躍的に向上させることが可能。現在では多くの動物病院で、PCR検査が取り入れられているそうです。(『感染性下痢におけるPCR検査(遺伝子検査)』「マミー動物病院ブログ」2011.5)
魚のパンデミックを予防するPCR検査
そしてもちろん当サイトのテーマである「魚」についてもPCR検査が用いられています。その代表的なものが「コイヘルペスウイルス」。
このウイルスはコイに感染すると「コイヘルペスウイルス病」という病気を引き起こします。発症後の致死率はなんと100%という恐ろしい病気で、養殖池の水などを通じて拡がります。1998年にイギリスで発生したとされ、その後世界中に拡散し、コイ養殖業界において「パンデミック」とも言える災害を引き起こしました。
日本では2003年5月に、岡山・吉井川のコイが大量に斃死する事件が発生してこのウイルスの存在が発覚しました。同年10月には茨城県霞ヶ浦でも発生し、すべてのコイ養殖業者が廃業する事態にまで発展。今や世界に冠たる「錦鯉」文化にも危機が訪れました。
そのため「持続的養殖生産確保法」に基づき、2003年以降、全国の都道府県でコイのPCR検査が実施されるようになりました。
コイがウイルスに感染しているかどうかは外見から判別することができず、症状自体も他の病害と似ており、目視による判別は難しいのですが、PCR検査であれば病原の特定も容易。コイヘルペスウイルスの流行が終息している現在でも、検査は続けられているそうです。(『コイヘルペスウイルス病のPCR検査』 神奈川県水産技術センター内水面試験場 2017.8)
検査効率を上げ、新型コロナウイルス蔓延に歯止めをかける存在として期待されるPCR検査。実は我々ヒトだけでなく、様々な生き物をウイルスから守っているのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>