秋田の県魚であるハタハタ。首都圏では12月頃に入荷される「冬の魚」ですが、実は「春に美味しくなる」魚でもありました。意外な産地やブランドを紹介します。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
目次
ハタハタとはどんな魚か
日本には、大変美味しい魚ながら、地域によって知名度が大きく異なる魚があります。ハタハタもそのひとつで、漁獲のある日本海側の地域では大変ポピュラーな魚で、とくに秋田県では県の魚となっています。
しかしながら、北海道を除く太平洋側の地域ではそこまで利用されていません。都心には秋から冬にかけて、主に秋田を中心とした北部日本海方面から入荷があります。オスとメスで大きく値段が異なることが多く、オスはかなり安価ですが、メスは高級魚と呼べる価格がつくこともあります。
ハタハタの卵「ブリコ」
メスの値段が上がる理由は卵巣。ハタハタの卵は「ブリコ」と呼ばれ、魚体に見合わない大きさと濃厚な食味から高い人気があります。
本来やや深い海に棲むハタハタが産卵のために接岸し獲りやすくなることもあり、基本的には産卵を控え卵を持つ晩秋~冬が旬だとされています。
鳥取産ハタハタ「とろハタ」の実力
さて、しかしながら最近、他の産地で水揚げされたハタハタに注目が集まっています。その産地とは鳥取。鳥取とハタハタ、魚好きでもあまり想像できない組み合わせだと思いますが、ここのハタハタには注目される理由がしっかりあるのです。
まず、鳥取県をはじめとした山陰地方は、ハタハタの水揚げはそもそも少なくありません。2018年の統計では、1位が兵庫県、2位に鳥取県が入り、この2県で全国の水揚げの45%を占めています。(「海面漁業生産統計調査」農林水産省)
山陰では北日本のように接岸個体を獲るのではなく、沖合を回遊している個体を獲るために漁期が長く、それに伴って年間あたりの水揚げ量が多くなるのです。これにより、比較的長い期間に渡りハタハタを提供することが可能となっており、レストランなどで使用しやすい食材となっています。
さらに、抱卵していない時期のハタハタを獲るために脂ののりがとてもいいことも特長です。鳥取県水産試験場の調査によると、ハタハタは大きくなるほど脂が乗り、20cmを超えるサイズのものでは平均して10%もの体脂肪を含有しているそうです。(「ハタハタ」とりネット)
鳥取県ではこの脂のりの良いハタハタを「とろハタ」と呼んでブランド化しています。漁期の終わりに近い春から初夏にかけてはとくに脂の乗りがよく、干物にすると絶品。今では、都心の市場で取り扱われているハタハタの干物の3分の1が鳥取産になっているといいます。
「とろハタ」の美味しい食べ方
とろハタはハタハタ本来の身の味を知るのには最高の素材です。一夜干しなど干物での流通が多いですが、この時期は鮮魚も流通しやすくなっています。もし鮮魚が手に入るなら色々試してみたいもの。
産地では古くから煮付けや塩焼きで食べられているほか、近年では一度つけ焼きにしてから押し寿司にする「じんたん寿司」という郷土料理も生み出されています。また、ご飯ではなくおからに漬け込んだなれずしも知られており、夏の祭に合わせて供されるそうです。
ときには刺身で食べられることもあります。
とろハタの刺身は強い弾力がありながらとろける脂の風味もあり、かなり美味です。しかし旋尾線虫という寄生虫がいることがあるので、生食する場合は一度冷凍するのが無難でしょう。
太平洋沿岸や南日本ではあまりメジャーではないハタハタですが、その美味しさを知るなら今がチャンス。小骨も少なく食べやすい魚なので、良いものを見つけたらぜひトライしてみてください。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>