軟体動物界の二大勢力である「二枚貝」と「巻き貝」。いくつもの違いがありますが「大規模な養殖が可能か否か」というのもそのひとつです。
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「つり(吊り)アサリ」
2018年、千葉県でとある「アサリの養殖」に新しく漁業権が交付されました。そのアサリのブランド名は「つりアサリ」といいます。
つりアサリの「つり」は「釣り」ではなく「吊り」。垂下養殖という方法で養殖されるこのアサリは、文字通り「海中に吊り下げられて」養殖されています。
千葉県は木更津沖の盤州、船橋沖の三番瀬などアサリの生息に向いた干潟を多く抱える古くからの名産地です。しかし近年は干潟の埋め立てや外来天敵の移入によりアサリの資源量が激減、天然ものだけでは需要を賄えなくなっています。
この「つりアサリ」は、千葉県のアサリ漁業の救世主になるのではないかと期待されています。
なぜ吊って育てる?
木更津漁協は2009年から試験的にアサリの垂下養殖を実施してきました。これはアサリの稚貝を砂とともにコンテナに入れて、海中に吊り下げ畜養するというもの。
アサリを食害するナルトビエイやクロダイなどの天敵から守ることができ、またアサリの餌であるプランクトンが豊富な海水が絶えずコンテナに当たり続けるため、身入りが良い上質なアサリが育つそうです。
この「アサリの垂下養殖」は全国で注目されているもので、三重県や兵庫県などでもすでに実施され、生産されるアサリの品質は高い評価を受けています。
「吊られて育つ」貝たち
さて、我が国における貝の養殖生産量については、カキとホタテが飛び抜けて多くなっていますが、この2種はどちらもアサリと同じく「垂下養殖」が主流です。
他にも「真珠貝」として有名なアコヤガイや、トリガイなどでも垂下養殖が実施されています。これらの養殖に共通するのはすべて「二枚貝」であるということ。
キャタピラのように動き回れる足を持つ巻き貝と異なり、二枚貝の足は基本的に「砂に潜る」ぐらいのことしかできません。また両側を殻に挟まれ、隙間から胴体を出すことができないというその形状から移動能力が低い二枚貝は基本的に「大量の海水を濾過して餌を集める」採餌方法をとります。
このため、二枚貝は動くことができなくても、海水中にあるだけで大きく成長することができます。これが二枚貝が垂下養殖できることの最大の理由です。
一方、巻き貝は移動しながら藻類や動物類、死骸などを摂餌するものが多く、動けない状態になると餓死してしまいます。アワビの陸上養殖などのごく限られた例を除き、巻貝類が養殖ではなく「稚貝を海に撒き、大きくなったら漁獲する」栽培漁業に限定されているのはこのためなのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>