古くからの魚好きとして知られる我々日本人ですが、「好きな魚」の内実は昔と今でかなり変わっているようです。
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魚の「出世頭」はマグロ?
突然ですが、我が国において歴史上最も「出世した」魚とはいったい何だと思いますか?スズキやボラのようないわゆる”出世魚”の話ではなく、その価値が最も価値が上昇したもの、です。
人によっていろいろな意見があるところでしょうが、個人的には「マグロ」ではないかと思います。真っ赤な身が特徴であるマグロは鮮度が落ちると身の色が悪くなり、また風味も悪くなってしまいます。
そのため流通技術の発達していないころは安い下魚とされていました。とくに脂が参加しやすい「トロ」は食用とすら思われないころもあったといいます。
しかし近代になり、冷蔵流通技術が向上し、また日本人の脂嗜好が強まったこともあって、今では御存知の通り。ブランド物のクロマグロは現在の市場において最も高価な魚のひとつになっています。
昔と今で評価が逆転した魚
さて、マグロに限らず、昔と今で食材としての評価が逆転した魚は数多く見られます。
江戸時代の1746年に刊行された料理本「黒白精味集」では、魚介類の評価を相撲の番付風にあらわし人気を博しました。その中で高い評価を受けている魚の中には、「コイ」や「フナ」など現在ではマイナーな食材になってしまっているものも多く存在します。
これらの魚は生命力の強い淡水魚であったため、海水魚と違い井戸水で生かしておくことができます。そのため冷蔵技術の乏しい時代には、鮮度を保って流通させられるものとして珍重されました。
しかしコイ科の淡水魚には独特の生臭さや骨の多さといったデメリットに加え、生食すると寄生虫に罹患する可能性もあり、冷蔵技術の発達した現在では海水魚に取って代わられてしまいました。
一方で、当書において低い評価を受けているものの中には「カニ」「フグ」「ブリ」「ムツ」といった現代の高級魚介が多々並んでいます。ムツのように脂肪分が多いもの、ブリのような青魚、カニなどの甲殻類は鮮度落ちによる食中毒のリスクや油焼けによる食味の低下が起きやすかったことから評価が低かったと思われます。フグの評価が低いのは、言うまでもなくその毒性からでしょう。