長寿を表す縁起物として、おせち料理に欠かせないエビ。イセエビやクルマエビなど高級エビが使われることも多いですが、個人的にとてもおすすめしたい"エビ"があります。
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正月にエビが欠かせないワケ
おせち料理に欠かせない食材の一つ、エビ。塩焼きや煮物にされたエビは、おせちに豪華さとハレの日の雰囲気をもたらします。安価なブラックタイガーから高価なイセエビまで、どんな価格帯のおせちにも入っているものです。
長寿の願い
おせち料理に使われる食材には、必ず「縁起」がありますが、エビの場合は「長寿」の願いが込められていると言われています。というのもエビを漢字で書くと「海老」と「老」の文字が入っているほか、その曲がった胴体や長いひげは老人を連想させるからです。
このことから考えれば「おせちのエビは腰が曲がっていればいるほど、ひげがながければ長いほど縁起が良い」といえるということになります。
オオコシオリエビ
今回ご紹介するのは、その点において非常に「縁起が良い」といえるエビです。どういうことかと言うと、その腰が「これ以上ないほど曲がっている」のです。
そのエビとは、深海性の「オオコシオリエビ」というもの。彼らは名前の通り、胴体の真ん中から尾にかけての部分が、キレイにぺったんこに折りたたまれているのです。あまりの曲がりっぷりに、屈曲部から先は色が薄くなってしまっているほど。
オオコシオリエビは深海数百メートル以深の場所に生息しており、タカアシガニ漁などの深海漁において混獲されます。数は決して少なくはないようですが、流通に乗ることはあまりない種類となっています。
ヤドカリの仲間
さてしかし、このオオコシオリエビ、ここまで熱く語っておいてアレですが、実は生物学的な「エビ」ではありません。
さっと観察するだけでもわかりますが、ハサミ脚を入れても、全部で脚が8本しかありません。カニやエビはハサミ脚を入れると全部で10本あり、この点において完全に異なります。
この脚が8本しかないという特徴は、実はヤドカリ類(異尾下目)であることを表すもの。彼らは一見するとエビに見えますが、実は殻に入らないタイプのヤドカリであるとも言えるのです。
しかしそれはそれとして、オオコシオリエビの身の味わいは甘みが強く、ミソは油みが強く濃厚、さらに素晴らしい出汁も出る、非常に美味しい甲殻類です。
棘の多い重厚な見た目や、明るい朱色の体色もおせちとしてふさわしいものに思えますし、この際エビだヤドカリだといったことは一旦おいておいて、おせちに活用してみてもよいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>