かつて、正月の遊びの代表格であった羽根突き。羽根突きが殆ど行われなくなった現在でも「羽子板」はよく知られていますが、その羽子板に例えられる魚が存在しているのはご存知でしょうか。
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羽根突きと羽子板
日本の正月の伝統的な遊戯といえば「羽根突き」。ご存じの方も多いと思いますが、木の板でできた「ラケット」で、木の実に羽をつけた「シャトル」を打ち合うという、穏やかなバドミントンのような遊びです。
この「ラケット」にあたるのが「羽子板」。羽子板ははじめはただの羽根突きのための道具でしかなかったのですが、やがて厄除けのシンボルとして、縁起物として扱われることが増えていきました。
スターの顔が描かれたり、金銀で飾られたりなど「飾り物」としての意味合いも大きく、時にはその装飾度合いが加熱してしまい、時の幕府によって規制が入るようなこともあったそうです。
今では羽根突きが行われることはかなり少なくなっていますが、飾り羽子板は未だに需要があり、また輸出もされています。
食べられる羽子板とは?
そんな羽子板ですが、ほとんどの場合は木製。もちろん食べることはできません。しかし、実は「食べられる羽子板」とも言うべき魚が存在します。
その魚とは「ウスバハギ」。主に南日本に生息する魚ですが、とくに九州の各地において「ハゴイタ」という名前で呼ばれているのです。
なぜそのような名前で呼ばれているのか、それは彼らを見たらすぐに分かります。まるで板のように扁平で幅広の体に、羽子板の持ち手部分のような尾びれ。このシルエットに加え、大きいものは60cmを超えるほどの大きさになるため、まさに飾り羽子板を想像させるような魚なのです。
ウスバハギってどんな魚?
このウスバハギは、名前からもわかるとおり、カワハギの一種です。温暖な海域に生息し、西日本に多い魚です。
彼らは体長と体高の割にとても薄っぺらく、まさに板の様な形状をしているため、市場などで並んでいると非常に存在感があります。カワハギ同様に丈夫な皮に包まれており、調理の前に剥ぎ取る必要があります。
ウスバハギはカワハギと比べるとやや身が水っぽく大味で、単体の評価はけして高くありません。しかし、その魚体同様「肝」が非常に大きく、かつカワハギ類らしくとても美味なため、地域によってはとても珍重されています。
最近では温暖化もあり、関東地方の市場でも顔を見ることが珍しくなくなってきました。特異な見た目や大きさに気圧されてしまうかもしれませんが、安価で美味しい魚なので、見かけたらぜひ食べてみてください。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>