トラフグにイセエビなど高級食材の北限が「福島沖」に集まるワケ

トラフグにイセエビなど高級食材の北限が「福島沖」に集まるワケ

豊かな漁場として知られながら、風評被害にも苦しむ福島県沖。ここで最近、いくつかの高級魚介が漁獲されるようになっており、注目されています。

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福島県でトラフグが豊漁

泣く子も黙る高級魚・トラフグ。日本で水揚げされる魚の中で最も高価なものの一つですが、そんなトラフグがいま、福島県相馬市沖合で盛んに漁獲されるようになっています。

トラフグはもともと南方系の魚で、西日本での漁獲が多くなっています。山口県下関市が国内有数の水揚げ地として有名です。太平洋側ではこれまで、千葉県沖辺りがトラフグ水揚げの北限とされていましたが、海水温の上昇で生息域が北へと拡大しているようです。

トラフグにイセエビなど高級食材の北限が「福島沖」に集まるワケトラフグ(提供:PhotoAC)

今年は相馬市沖で小型船約10隻がトラフグ漁を行っており、その水揚げ量はトラフグ漁が解禁になった9月だけで3.5tと順調に獲れています。将来の「ブランド化」を見据え、地元漁師からはトラフグ稚魚の繁殖や放流を含めた漁獲の安定化を望む声も出ているそうです。(『相馬沖、トラフグ豊漁 水温上昇し生息域北上 特産化へ地元前向き』河北新報 2021.10.14)

イセエビも漁業種に

福島沖で最近捕れるようになった高級魚介はトラフグだけではありません。エビ類の中で最も高価なものの一つであるイセエビも、そんな魚介類の一つです。

福島県水産海洋研究センターの調べによると、東日本大震災前のイセエビの水揚げ量は、多い年でも1年間に2t程度でした。しかし、2019年は3.7t、2020年は4.4tと倍増しています。

トラフグにイセエビなど高級食材の北限が「福島沖」に集まるワケイセエビ(提供:PhotoAC)

2021年も8月までですでに2.7tと、2020年とほぼ同じペースで水揚げを伸ばしている状態です。これまで、イセエビの繁殖可能な生息域は茨城が北限と言われていたのですが、福島沖までそれが拡大したものと考えられています。

なぜ福島沖がアツい?

福島沖は暖流である日本海流(黒潮)と寒流である千島海流(親潮)がぶつかるところとして知られており、暖かい海の魚介と冷たい海の魚介がどちらも生息しています。その中で、より暖海を好む生物は、寒流の影響も受ける福島沖ではなく、その少し南である茨城沖が生息北限となることが多くなっていました。

トラフグにイセエビなど高級食材の北限が「福島沖」に集まるワケ新しい漁業種に期待が集まる(提供:PhotoAC)

しかし近年、海洋温暖化や海流の変化により、暖流である黒潮の影響が強まっています。それに伴い、より温かい海域に生息している魚介類の北限も、福島沖辺りまで北上しているようなのです。

福島の漁業は今も、原発事故による風評被害に苦しんでいます。そんな状況に、これらの新顔の高級魚介が風穴を開けることを、地元の漁業関係者は願っているそうです。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>