北日本や高山地帯の湖に生息し、食通や釣り人に好まれるヒメマス。あまり耳馴染みのない名前ですが、実は誰もが食べたことのあるあの魚と同じ種類なのです。
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ヒメマスの遡上が始まる
秋田県小坂町にある日本有数の湖・十和田湖。ここでは先日、特産のヒメマスの遡上が始まり、地元の漁協による地引き網漁が行われています。
漁協では長年ヒメマスのふ化と放流に取り組んでおり、毎年この時期には産卵のために戻ってきたヒメマスを捕獲し、採卵作業を行います。今年のヒメマスの遡上は9月10日から見られるようになったといい、現在は2日おきに漁が行われています。
ヒメマスは体長30cmから40cm近くまで成長しているものもあり、おおむね例年並みの大きさだそうです。ただし漁獲量は日毎にばらつきがあるとも。ヒメマスの遡上は10月下旬まで続く見込みで、十和田湖では10月1日からヒメマス釣りが解禁され、釣り人で賑わいます。(『大きくなって戻ってきました…十和田湖でヒメマスの遡上始まる 秋田・小坂町』秋田テレビ 2021.9.28)
ヒメマスとはどんな魚?
ヒメマスは、サケ目サケ科の淡水魚の一種。自然分布は北アメリカ太平洋沿岸、ロシアカムチャッカ半島、北海道の阿寒湖などとなっています。もともと本州にはいない魚ですが、十和田湖、中禅寺湖、芦ノ湖と富士五湖の西湖、本栖湖には移植され、定着しています。
ヒメマスは低水温のきれいな水を好み、ユスリカなどの小動物やワカサギなどの小魚を食べています。釣りの対象魚として人気となっており、ルアーやフライフィッシングで漁獲されます。
ヒメマスと言えばやはりその美味。身質がよく、小さくても脂がよく乗り、マス類の中でも屈指の美味として知る人ぞ知る魚となっています。産地では燻製やムニエルで賞味されています。
ヒメマスは実は「ベニザケ」と一緒!
ヒメマスは美味な魚ですが、釣り人や魚好き以外における知名度は決して高くはないようです。これはこの魚の鮮度落ちが早く、産地以外にあまり流通することがないのが理由でしょう。
しかし実はこのヒメマス、おにぎりの具などで非常に人気が高い「ベニザケ」と同じ種の魚です。ベニザケはサケと同様に、海で成長し川に上って産卵するのですが、中には海に降りずに成熟したり、海ではなく湖に降りて産卵する「陸封型」と呼ばれるタイプの個体がいます。これがヒメマスです。
ヒメマスもベニザケと同様に3~5年ほどかけて成熟し、河川上流域や湖に流れ込む川の河口で産卵を行います。ヒメマスとベニザケは「ヤマメとサクラマス」「アマゴとサツキマス」と同じ「降海型と陸封型」の関係にあたるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>