鹿児島湾に面した霧島市で行われる伝統漁「はんぎり出し」。この漁で狙われるのは、都心の海でもおなじみの「ボラ」だといいます。
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伝統漁「はんぎり出し」
鹿児島県霧島市にある干拓潮遊池(海を干拓した際にできた浅い潮溜まり)で、8月16日、伝統的な漁の行事である「はんぎり出し」が実施されました。
この行事では、住民たちが馬の飼葉桶を半分に切った「はんぎり」と呼ばれるおけを取り付けたいかだでこぎ出し、池の真ん中で投網を打ち、魚を捕ります。
はんぎり出しは、お盆が明け、精進料理から肉や魚を使った食事に戻す「精進落し」の行事のひとつ。毎年8月16日に開催されており、今年は新型コロナウイルス感染症の影響で開催が危ぶまれたものの、なんとか実施できたそうです。(『江戸時代からの伝統漁「はんぎり出し」 エッナ(ボラの子)狙い網を打つ 鹿児島・霧島市』南日本新聞 2021.8.18)
ターゲットは「エッナ」
はんぎり出しは江戸時代から続く行事です。新田開発でできた潮だまりを管理する水守に、手当の代わりに漁業権が与えられ、「エッナ」という魚をとったのが始まりとされています。
エッナとは当地における「ボラの稚魚」の呼び名です。彼らは干拓潮遊池のような塩分濃度の低い内湾の浅瀬を好む魚で、このような場所に大群をなして入り込みます。
そのため、投網を打つと一度に大量に採れることもしばしばです。はんぎり出しで獲れた「エッナ」は酢味噌をつけて生食されるそうです。
身近な出世魚「ボラ」
現在、ボラは食用魚としては全くメジャーではなく、むしろまずい魚として認識されているフシもあります。しかし内湾に多く、都市河川にも入り込むボラは、高度経済成長期に河川や内湾の汚染が問題になるまでは、最も身近な食用魚であり、養殖も行われていたほどでした。
そのため各地で親しまれてきた歴史があり、サイズごとに違った呼び名を持つ、いわゆる「出世魚」となっています。例えば関東地方では成長に伴い「オボコ → イナッコ → スバシリ → イナ → ボラ → トド」、関西では「ハク → オボコ → スバシリ → イナ → ボラ → トド」と名前が変わります。イナは上記の霧島市のように「エナ」「エッナ」となまる地域も多いようです。
各地にはいまでも「おぼこ」「いなせ」「とどのつまり」など、ボラの名前にちなんだ言葉も多く残っています。現在ではなかなか市販されることもありませんが、海や川の近くを歩くと目に入ることも多い魚。見つけたらぜひ「かつては身近だったこと」を思い出してみてください。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>