アジ、サバ、タイなど塩焼きにして美味しい魚は数多ありますが、中でもプロから高い評価を受ける「タカベ」という魚をご存知でしょうか。
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梅雨時期に旬を迎える魚たち
5月5日、南西諸島で例年より早く梅雨入りしたことが発表されました。季節の進みが明らかに早いと感じる今年ですが、本土でも5月中の梅雨入りもあるとの予報が出ています。
というわけで今年もまもなくジメジメして不快な季節がやってくるわけですが、我々魚好きにとって「梅雨」は悪いことばかりではありません。とくに海中では、雨水に由来する栄養塩が増えるため、それを餌とするプランクトンも増え、栄養の多い豊かな環境となります。
結果として市場には魚の入荷が増え、また旬を迎えるものも多くなると言われています。「入梅鰯」と呼ばれるマイワシや、「梅雨の水を吸って大きくなる」と言われるマダコがその代表例でしょう。
東京が誇る高級魚「タカベ」
そんな「梅雨時から旬となる」魚のひとつに、タカベという魚がいます。スズキ目タカベ科という独立した科に属する魚です。
このタカベは温かい海に多く、とくに黒潮の影響が大きい伊豆半島南部以南に多く生息しています。釣りたてはまるで大洋の海水のように深い青色をしており、尾びれにかけてきれいな黄色のラインが入ります。その見た目と生息域から「黒潮の申し子」と呼ばれることも。
タカベは東京都に属する伊豆諸島での水揚げが多いことから、都心の市場にも多く入荷します。大きくても20cmちょっとの小魚で、一般的な知名度もあまり高くはないと思いますが、1匹500円以上する高級魚であることからも、味が良いことがわかっていただけるかと思います。
タカベは「塩焼き専用魚」?
そんなタカベの代表的な食べ方はなんと行っても塩焼き。流通関係者の中には、このタカベを「塩焼き専用魚」と呼ぶ向きもあるほどです。
旬のタカベは皮下脂肪や内臓脂肪がこってりと乗り、焼くとまるでバターのような脂がにじみ出てきます。この脂と、柔らかくほぐれる身が相まって食味は抜群。同じく夏が旬で、塩焼きが人気のイサキよりも高い評価を受けることもあります。
一方、タカベには鮮度落ちが極めて早いという欠点があります。そのため主要産地である伊豆諸島で水揚げされたものは、加熱調理用として流通することが多いです。
しかし、伊豆半島や房総などでも多少ながら水揚げがあり、陸送されて市場に入荷します。このような新鮮な個体でつくる刺身は、まさに他にはない味わいが楽しめます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>