単調な海岸線が続き、海水魚の養殖があまり盛んではない新潟。しかし今、ちょっとマニアックな魚の完全養殖が成功し、話題になっています。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
柏崎のブランド魚を目指す「ヒゲソリダイ」
新潟県柏崎市にある世界最大の原子力発電所、柏崎刈羽原発。そこに隣接した養殖施設で「ヒゲソリダイ」の養殖研究が2年めに突入しました。
養殖施設があるのは、同市荒浜地区にある海洋生物環境研究所(海生研)実証試験場です。ここで、2017年にヒゲソリダイの親魚から採取した直径約0.9mmの卵から稚魚をかえすことに成功。その翌年には、その稚魚が育った成魚が生んだ卵の孵化・畜養に成功し、全国初のヒゲソリダイの「完全養殖」を成し遂げました。
養殖されたヒゲソリダイは、昨年より販売を開始しています。関係者からは「柏崎の新ブランドになってほしい」と期待されているそうです。(『柏崎で全国初の養殖成功、ブランド魚になれるか』朝日新聞デジタル 2021.2.8)
ヒゲソリダイとは
知名度は低いものの、そのユニークな名前から一度覚えたら忘れないヒゲソリダイ。クロダイをちょっと馬面にして、体高を高くしたような見た目をしているのでタイ科かと思いきや、こう見えてイサキ科の一種です。
やや暖かい場所を好み、本州北部以南の各地に生息しています。そのユニークな名前の由来ですが、近縁種に顎にヒゲ状の突起が目立つ「ヒゲダイ」がおり、それよりも突起が短いので「ヒゲソリダイ」となりました。
ヒゲソリダイは背びれがかなり大きく、それを動かす筋肉が「エンガワ」状に発達しています。ここの筋肉がヒラメのエンガワ同様脂のりがよく、ゼラチン質も豊富でぷりぷりした食感があります。もちろん、あらゆる料理で美味で、とくに煮付けが絶品です。
発電所の温排水と養殖
海生研はもともと、発電所からの温排水が生物に与える影響を調べる機関です。これまで240種を超える生物を飼育し、卵を孵化させる研究にも取り組んできたといいます。
日本の発電において主力である火力発電所や原子力発電所の多くは、海水を冷却水として利用し、また放出します。中でも原発の温排水は温度が高く、取水時と比較すると平均で7℃ほど高くなっています。厳格な安全基準があるため、放射性物質も含まれていないとされます。
そのため、原発からの温排水を利用し、魚の促成養殖を行う例は各地にあります。事故前は福島第一原子力発電所でも、養殖の研究が進んでいたそうです。東日本大震災後の点検停止以降、多くの原発でまだ再稼働が行われていない状況ですが、今後再稼働が始まれば、温排水での養殖はより盛んになるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>