高級魚ながら猛毒を持つサカナとしても有名なフグ。「毒がある」とわかっていながら、現代でも中毒事故が発生しているのは、一体なぜなのでしょうか。
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冬に多い「フグ中毒」
冬になると食べたくなるのがフグ。北風吹き荒れる寒い日に、「ふぐちり」をつつきながら飲むひれ酒は何ものにも変えられない味です。
しかし、その美味と引き換えに語られるのはやはり強烈な毒性。毎年冬になると全国各地でフグ中毒事故が発生し、ときに死に至ってしまう例もあります。平成30年には全国で14件の事故が発生し、19人の患者が報告されたそうです。
そして今年2021年も、すでに広島県・神奈川県で中毒事故が発生し、年始のニュースを騒がせています。(『釣ったフグを調理し食中毒 「過去にも何度か食べたが、あたったことはなかった」』カナロコ 2021.1.5)(『息子が釣ったフグを冷凍後、皮を煮て食べた女性が食中毒…保健所「素人の調理は極めて危険」』読売新聞 2021.1.4)
フグの危険性と専門の調理免許の存在は広く知られているのに、なぜ中毒事故は減らないのでしょうか。
中毒事故の殆どは「素人料理」
今回、両県で発生した事故には、共通点があります。それはいずれも「釣り人が自家料理して中毒してしまった」ということ。
今回の事故のみならず、上に記載した平成30年のフグ中毒事故数のうち、13件18人が、釣り人をはじめとした「素人調理」による中毒です。(『知ろう!防ごう!ふぐ中毒』大阪府HP 2020.4.3)フグ中毒事故は、その殆どが調理師免許を保持しない素人によって引き起こされたものなのです。
フグを調理するには「フグの毒の有無を判別し」「有毒部位を的確に除去する」ための知識と技術が最低限必要となります。フグの専門知識を有しない素人による調理は非常に危険なのが、過去のデータからもはっきりわかります。
「無毒部位」と勘違い?
ここでもう一つ気になるのが「フグには毒がある」というのは常識なのに、なぜ素人料理をして食べてしまうのかということ。そこにはやはり「高価なフグを気軽に食べたい」という思いがあるのだと推測されますが、それ以外にも「無毒だと勘違いしてしまった」ことも理由としてあげられるかもしれません。
本年に発生した2件の事故では、神奈川県の中毒者は「精巣」を、広島県の事故は「皮」を食べたことによるものだと報道されています。食通の方には常識かと思いますが、フグの精巣(白子)や皮は珍味として人気が高く、フグの部位の中でも、筋肉同様に「無毒」のイメージが強くなっています。
しかし実際は、食用フグでも皮膚や精巣に毒を持つ種類は多く、筋肉を含め「フグの〇〇(部位)は無毒で食べられる」と早計してしまうのは大変に危険です。これに加え、可食部位を持つフグでも、地域によって有毒性を帯びてしまうこともあります。
フグの調理にはこれらの条件すべてを網羅した体系的な知識が必要になるため、素人が気軽に手を出して良いものではないので、注意が必要です。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>