近年、新たな海産資源として注目を浴びている深海魚介。静岡や和歌山など、深海生物を特産物とする地域はありますが、鹿児島のとある自治体もそれに続こうとしています。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
南さつまで盛んな「タカエビ漁」
鹿児島県の本土東端に位置し、東シナ海に面する「南さつま市」。
2005年に誕生したばかりの新しい市で、北東に突き出す野間半島などの旧笠沙町域を中心にリアス式海岸が広がり、天然の良港が点在しています。そのため漁業が中心産業の一つとなっており、様々な漁が行われています。
その中でも特筆すべきものは「タカエビ(ヒゲナガエビ)」です。深海性のエビで、最近スーパーマーケットなどで見かけない日はない赤海老(アルゼンチンアカエビ)と近縁種です。
味は赤海老よりも上と評価されており、地元では寿司ネタなどで愛されています。
混獲される未利用深海魚
このタカエビは「深海底引き網漁」で漁獲されているのですが、この漁法は全国各地で深海魚漁に用いられてるもの。そのためタカエビ漁においても、様々な深海魚が混獲されます。
この中にはニギスやハダカイワシなどといった、地域によっては漁業的価値がある魚種も含まれています。しかし現在、南さつま市ではこのような深海魚は価値のないものとみなされ、海上投棄されているそうです。
そこで、南さつま市の水産振興対策協議会は10月15日に、未利用の深海魚の活用を探る研修会を開きました。東日本最大の深海漁基地のひとつである静岡県沼津市で、南さつま市のタカエビ漁で混獲されるような深海魚が活用されていることにヒントを得ての開催だそうです。
試食会での評価は上々
この研修会では鹿児島大学の教授による講演や、深海魚の試食会も行われました。市内の加工会社の協力により、ニギスのフライやユメカサゴの煮付け、キホウボウの唐揚げなどが振る舞われたそうです。
実際に試食をした参加者からは「癖がなく想像以上にいける」「利用価値が高いことが分かった」との声が上がり、いずれも高評価だったといいます。
南さつま市をはじめ鹿児島周辺海域は島しょ部が多く、また場所によっては岸近くから急に深くなるところもあります。このような地形は沼津に面する駿河湾と似ているということができ、そのため鹿児島が「東の静岡と並ぶ西の深海魚王国になる」という指摘もなされています。
参加者は「地元に普及させて良さを周知し、販路を広げていきたい」と、深海魚の活用に手応えを感じているそうです。(『鹿児島は「西の深海魚王国」 南さつま市で活用探る研修会』南日本新聞 2020.10.21)
<脇本 哲朗/サカナ研究所>