サカナを裁くときにつきものなのが、皮の表面についている「ヌルヌル」・「ネバネバ」。よく考えるといったい「この成分は何なのだろう?」と疑問に思った方もいるのではないでしょうか?今回はこのヌルヌルについて調べてみました。
(アイキャッチ画像出展:PhotoAC)
サカナの表面はヌルヌル
サカナを触ったことがある人ならなんとなくわかると思いますが、サカナの表面は非常にヌルヌルしています。
中にはうなぎなど手で掴めないほどヌルヌルしているサカナもいます。
いったいなぜヌルヌルしているのか?どういった成分なのか?を調べてみました。
ヌルヌルは何なのか
まずは魚のヌルヌルの名前から調べてみました。あのヌルヌルは一般的には、「ムチン」と呼ばれており、皮膚の粘液細胞というところから分泌されている物質になります。
ムチンとは、化学的には動物の粘液「mucus」をその語源としており、動物の粘液の主成分、ムチン型糖タンパク質(タンパク質に糖が結合した物質)を指します。
「ムチン」はネバネバ物質の総称としても使われることが多いですが、ネバネバ食材のオクラや山芋には含まれていません。このムチン型糖タンパク質は植物にはなく、動物のみが持つ物質になります。
ムチンは糖タンパク質のほかにコンドロイチン硫酸やヒアルロン酸,ペクチン酸などの混合物も含んでおり、近年では化粧品などにも注目されています。
では、このヌルヌルのムチンはサカナにとってどのような役割をしているのでしょうか。
ヌルヌルの役割
サカナにとってのムチンとは、「身を守るため」の道具です。
魚の体表は普段は鱗がびっしりと並び、外界からの物理的なダメージを防いでくれていますが、実はこの鱗は思っているよりも簡単に剥がれてしまいます。
鱗が剥がれてしまうと、サカナの皮膚に当たる部分は外界に直接接触してしまうため、病原菌やウイルスに感染しやすくなってしまいます。
ムチンはこういった時に鱗の代わりに壁となって病気やウイルスからサカナを守る役割を持っています。また、サカナの中には、敵に襲われたときに高濃度のムチンを分泌して、敵の身動きを封じ、その間に逃げる攻めのディフェンスに使うサカナもいるようです。
鱗が無い魚
全てのサカナにウロコがあると思っている人も多いかもしれませんが、実はサカナの中には鱗が無いものも数多く存在します。
私たちの身近なサカナでいうと、ドジョウやウナギ、ウツボなどがその代表でしょう。
なんとなく彼らがヌルヌルしているのが想像できると思いますが、彼らは体表から多量のムチンを分泌することで鱗と同じように外界から身を守っています。
キング・オブ・ヌルヌル
ヌルヌルしたサカナの中で最もヌルヌルしている魚をご紹介します。
その名も「ヌタウナギ」。
※名前にウナギとついていますが、分類学的にはかなり遠縁な種類になります。
このサカナは、尋常ではない量のヌルヌルを分泌し、出てきたヌルヌルがもはやゼリー状の塊になってしまうほど。
深海に住んでいるため、日本の食卓にはあまりなじみの無いサカナですが、韓国では、割とポピュラーな食材で、唐揚げや炒めものに良く用いられているそうです。
食感はまるで鶏肉やホルモンのようだとか。なかなか出会えない食材なので、見かけたら是非食べてみて下さい。
ヌルヌルで交通事故?
このヌルヌルは扱い方によってはトラブルの原因になる可能性があります。
例えば、2017年にアメリカのオレゴン州でトレーラーが路上で横転してしまうという事故がありました。
この時、積載されていたものが、韓国からの大量のヌタウナギでした。約150mに渡って、ヌタウナギが生きたまま路上に散乱してしまいました。そして、ヌタウナギが分泌したヌルヌルにハンドルを取られて、後続の乗用車4台が次々にスリップ事故を起こしてしまったのです。
かくいう筆者の友人も、似たような経験をしたことがあると聞いたことがあります。友人は、サカナを積んだトラックの後ろを車で走っている時に、ポタポタと滴っていた液体を踏んでカーブで数回転スリップしてしまったようです。
危うく崖下に転落するほどの事故を起こしてしまうところだったようです。サカナのヌルヌルは、人間の生活を脅かす可能性があります。ヌルヌルごときと侮っていけません。
<近藤 俊/サカナ研究所>