サカナの『養殖』を取り巻く環境と現状 遺伝子汚染のリスクとは?

サカナの『養殖』を取り巻く環境と現状 遺伝子汚染のリスクとは?

魚を食べる時に気になるパッケージの「天然」もしくは「養殖」の文言。養殖モノだとがっかりする人も?今回は、サカナの『養殖』の現状について紹介します。

(アイキャッチ画像出展:PhoteAC)

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その他 サカナ研究所

総生産量の25%を占める『養殖』

先ず、養殖とは国語辞典によれば、「魚や貝・海藻などの水産物を人口的に養って増やすこと。」とされています。(旺文社 詳解国語辞典 山口明穂 秋元守英編 初版発行日1985年11年15日 発行所:株式会社旺文社)

日本の養殖においては魚ではブリやタイ、貝類では牡蠣などが非常に盛んです。四方が海に囲まれてた日本では、昔から様々な漁業が盛んに行われていました。

近年、漁業の中でも養殖漁業の技術がドンドン発達してきており、養殖での生産量は漁業の総生産量の約25%くらいまで占めるようになりました。(参考元:農林水産省 海面漁業生産統計調査 公表資料名よりhttp://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/)

養殖漁業は安定的に魚介類を出荷・供給することができ、日本の漁業において最も重要な生産方法の一つとなっています。

サカナの『養殖』を取り巻く環境と現状 遺伝子汚染のリスクとは?日本の海は養殖に適している(出典:PhotoAC)

海面養殖と内水面養殖

魚の養殖には2種類あり、海の魚を養殖することを『海面養殖』、淡水に生息する生息する魚を養殖することを『内水面養殖』と言います。

日本でのそれぞれの生産量TOP3を紹介していきます。

海面養殖 生産量TOP3

1位 ブリ 約140,000トン

2位 マダイ 約60,000トン

3位 クロマグロ 約18,000トン

内水面養殖 生産量TOP3

1位 サケ・マス類 約7,700トン

2位 アユ 約2,100トン

3位 ワカサギ 約1,100トン

(※出典:「平成30年漁業・養殖業生産統計 公表資料PDF:1,389KB
(農林水産省)」(http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/attach/pdf/index-24.pdf))

これらの魚の名前を見ると、やはり私達に馴染みのある魚であり、ブリやマグロ、サーモンは回転寿司に行けばかならず食べる魚種だということが分かるでしょう。

サカナの『養殖』を取り巻く環境と現状 遺伝子汚染のリスクとは?アジの養殖も盛ん(出典:PhotoAC)

養殖のメリット

養殖のメリットはまず安定した収穫が行えることです。

天候や水温、その他様々な環境要因で漁獲量が安定しにくい天然魚と違い、プールの中で一定の環境下で育てられる養殖魚は、常に安定した個体数を収穫できます。

また、餌となる飼料の原材料を調節することで、身に含まれる脂を多くしたり、身の色を鮮やかにしたりすることが出来ます。

全身トロの「近大マグロ」のようにブランド化しやすいこともメリットの一つでしょう。

養殖のデメリット

ただ、養殖のすべてが良いわけではありません。

コスト面のリスク

養殖魚を一箇所で大量に飼育することで、その海域が汚れてしまう海洋汚染であったり、養殖魚の飼育のために餌となる稚魚が乱獲されてしまったりと、まだまだ課題が多いのも事実です。

また、養殖業者にとっては、魚に与える餌代も頭を悩ませる要因の一つです。その割には養殖魚は天然の魚に比べて売値が安くなる傾向にあるため、薄利多売になりやすい傾向があります。

安定的に生産ができるからこそ、販売先がしっかり確保できていないと、赤字になってしまいます。

遺伝子汚染のリスク

さらに、例えば「成長は速く、太りやすい、その代わりに寿命が短い」などの品種改良されてきた養殖魚が大量に自然界に脱走してしまうとします。

その魚たちが天然魚と交配することで、天然魚も品種改良の影響を受けてしまい「遺伝子の汚染」が起きてしまう可能性もあります。

世界的に需要が高まっている養殖

FAO(国連食糧農業機関)の統計によると世界の食用魚介類の1人当たり消費量は、最近50年間で約2倍に増加しています。中国では同期間に約8倍、インドネシアでは約3倍になるなど新興国での伸びが目立っています。

食用魚介類の需要が高まると同時に、近年ではアジア圏を中心に、魚の生産量も右肩上がりで増えています。

昔ながらの漁業による天然魚の漁獲高はそこまで大きな変化もなく横ばいに推移していますが、この数年で養殖による魚の生産が急増し、いまや世界の魚生産量の40%超を養殖魚が占めるようになっています。

世界的に見ても、食用魚介類の需要は高まっており、その供給のための養殖への需要が高まっていると言えるのでしょう。

今後のさらなる養殖技術の向上が求められています。

<近藤 俊/TSURINEWS・サカナ研究所>